香りで惑わし、甘さで虜にする。
メロンは、なんとも甘美な果物です。厳密には植物学的な観点では野菜に属しますが、野菜のソレとはだいぶかけ離れた存在です。高級な果物の代名詞にもなるメロン。世間一般にはブランド力に左右されるようで、北海道の赤肉系のメロンや、静岡県や熊本県のアールス系のメロンの存在感が大きい印象ですが、出荷量は茨城県が群を抜いて多いのです。茨城県は全体的に高低差が少ない関東平野のイメージそのもの、関東ローム層に覆われた大地です。海にも面し、温暖で昼夜の温度差がある程度あるのも好ましい。この地質に気候は、まさにメロンの好むところ。茨城県が作らずして、どこが作ろうか、と思ってしまうほどです。
県内では、鹿島灘に面した鉾田市が一大産地。首都圏を中心に、北は東北から南は関西まで広く出荷を行っています。鉾田市で栽培が始まったのは、今から50年ほど前のこと。当時はさつまいもや麦栽培が中心だったこの地で、プリンスメロンの試作からメロン栽培の歴史は始まりました。当初は栽培面積、収穫量も少なかったのが、またたく間に増えていったといいます。昭和52年に登場したアンデスメロンの栽培にもいち早く着手し、平成に入って登場した赤肉系のクインシーメロンへ。この2種は今も主要の品種です。現在は、これにオトメメロンを加えた3種がメインになっています。4月上旬〜オトメメロンの出荷が始まり、クインシー、アンデスと順々に登場します。
ちなみにメロンは食べどきの見極めが、食べたときの充実感を大きく左右します。追熟が足りなくても、過熟でもだめ。追熟が足りないとメロンの持ち味である“とろけるような舌触り”には出会えません。逆に熟しすぎると、今度はアルコールの生成が過剰になり、舌にビリビリとした刺激を感じます。かつて私も、メロンを大事にしすぎたあまり、熟しすぎたものを口にして「苦い! メロンの攻撃だ」と思ったことがあったものです。個体差はありますが、収穫から4、5日経った頃が食べごろで下部から香りを感じるようになったら、いざ冷蔵庫へ。ちなみに、追熟が足りないものは常温において追熟を促し、食べる直前に冷蔵庫で冷やします。ひと株にメロンの実はいくつもつきますが、ひとつを充実させるため、そのひとつを残してすべて摘果し、大事に育てられるメロン。単純においしいからだけではなく、大事に育てられたメロンの姿を想像すると、扱いもついついVIP待遇になってしまうのです。
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