みかん栽培の北限。
それが、茨城県です。家庭の庭で育つものとしては、さらに北の地域でも確認はできますが、栽培としては茨城県だといわれます。県内では筑波山の近辺が栽培地。一般的な温州みかんも栽培されていますが、ここにひかえめながら、強烈なインパクトを与えてくれる福来(ふくれ)みかんがあります。指の先にもちょこんと乗ってしまうほどの小さな、小さなみかんです。厳密には温州みかんとは異なり、柑橘類の中で唯一の日本原産のミカン科の植物“橘”の一種だと考えられており、常陸風土記にも橘の記載があるほど、古くから自生していたようです。温州みかんが一般的になる以前は、茨城県でみかんといえば、この福来みかんを指す時代もあったようです。
橘は全国各地に自生していました。ほかの地域で育つ橘は、甘みも薄く食味に堪えないものが多いなか、なぜかここ筑波山の周辺で育つこの福来みかんは、酸味も甘みもあり果物として食べるにふさわしい味わいです。この福来みかんは、この土地ならではの植物なのでしょう。
直径3センチほどで、皮は鮮やかな黄色。小さいながらに、中身はいくつもの房が並び、いっちょまえにみかんのナリをしています。皮をむくとはじけるような香りにクラクラ。この香りのよさは、日向夏や黄金柑のそれにも似ています。この皮の香りの高さから、地元では七味唐辛子の材料のひとつ、チンピとして使われてきました。果肉は甘みがあることはもちろん、キリッとした酸味があるのも特徴です。
温州みかんと比べて可食部が小さく、しかも種が大きい。さらに世の中は、糖度が高いものが求められるようになり、次第に福来みかんの存在は忘れられていくという悲しい過去がありました。しかし、最近になり香りの高さなど、福来みかん特有のよさが見直され、2006年には筑波福来みかん保存会が結成されました。青果用に加えて七味唐辛子のほか、ジャムなど加工品を作るなど、つくばの名産品として、その存在は徐々に名が広まりつつあります。
酸味のある果物が好きで、好きで。温州みかんなら、きっちりすっぱい極早生種が一番好き。ですので、福来みかんが好きじゃないわけなどないのです。福来みかんを手に入れたら、全部食べてしまいたい気持ちを抑えつつ、周りの人に「福が来ますように」と言いながらひとつ、またひとつと配るのです。
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