いばらきの生産者

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茨城県有数のぶどう産地として知られ、梨の生産も盛んな常陸太田市。しかし今回はぶどうで有名な北部の地域でもなく、梨の生産者が集中している東部の地域でもない、市街地のほど近くでポツンと1軒、独自の進化を続けている観光果樹園のお話しです。ぶどうならぶどうだけ、梨なら梨だけという専門農家が主流のなか、梨、ぶどう、いちごと、3種類の果実を栽培している桧山果樹園。梨とぶどうは8月9月、いちごは11月から4月末までと、1年の3分の2にあたる8ヶ月もの長期間にわたり、採れたてのみずみずしい果実を提供しています。特筆すべきは梨とぶどうを1箱に詰めたセット販売。これがお客様に好評で、一度利用された方は高確率でリピーターになっていかれるとのこと。梨担当の邦男様(父)、ぶどう担当の誠光様(長男)、いちご担当の貴臣様(三男)のお三方からお話をうかがいました。

桧山果樹園ならではの みずみずしい秋の味覚の詰め合わせ

−まずは桧山果樹園2代目の邦男様より、こちらの成り立ちから現在までをおうかがいしました。

邦男さん 今から64年前、元々葉タバコを生産していた父(初代)が若い頃、おじいさんの目を盗んで畑の隅に一本の梨の木を植えたことが始まりです。やがて葉タバコが斜陽になり梨をメインにしていくのですが、ぶどう栽培が盛んな地域から嫁にきた母のつてで苗木を手に入れ、ぶどうも栽培するようになりました。ぶどうは昔から市の北部の地域、梨は東部の地域に生産者が集中しており、当時この辺りで果樹をやっていたのはうちぐらいで、ましてや梨とぶどうの両方を手がける農家は他にもあまりなく、そういう意味ではめずらしい存在だと思います。

父の時代は一から始めた慣れない果樹栽培で苦労も多く、作付面積は梨とぶどう合わせて60アールもないくらいでした。私が会社勤めを辞めて一緒にやるようになってから徐々に規模を拡大し、梨とぶどうをセットにした販売方法が確立していったのです。現在は梨が120アール、ぶどうが40アール(うちハウスが20アール)ほどです。

−桧山果樹園さんの最大の特徴である梨とぶどうのセット販売。消費者にとっては便利でうれしいお買い物ですね。

邦男さん 梨の収穫時期はお盆前からお彼岸くらいまで。ぶどうは9月に入ってからですから、従来1箱に詰め合わせて販売できるのは9月に入ってからのわずかな期間でした。それでもやはり梨とぶどうを同時に購入できるところは他にはないということで、私が就農したばかりの頃、運送会社の方がセット用の箱を作ってはどうかと提案してくれました。当時名入りの箱を500枚ほど作ったでしょうか。それを運送会社のドライバーがセールスしてくれて、1シーズンに100箱200箱と、数年間注文をとってきてくれたのです。それが徐々に固定客に繋がり、桧山果樹園なら詰め合わせで買えて季節の贈答品に丁度良いと、市内のお客様に口コミで広がり、存在を知っていただけるようになりました。

−梨とぶどうは収穫時期が微妙にずれると思うのですが、どのようにして調整しているのですか?

邦男さん 1本の梨の木から収穫できるのは、どの品種もせいぜい1週間から10日。うちでメインの「幸水」が出るのは例年8月20日頃からですから、巨峰が採れはじまる9月頭の頃には終わってしまうんですね。こうした収穫時期のズレをなんとかうまく組み合わせ、需要の高いお盆前からセット販売ができるようにと試行錯誤をしています。 梨はいくつかの品種をリレーさせています。一番手は8月初旬から採れはじめる「早水」。大玉の赤梨で茨城の特産品種です。続いて「なつしずく」。しっかりと甘みのある青梨です。その後は梨の王様と言われる「幸水」、甘みと酸味の調和した「豊水」、味だけでなく香りもすばらしい「秀玉」と続きます。 問題はぶどうです。露地栽培だと収穫は9月に入ってからですが、ハウス栽培で温度管理がしっかりとできれば、逆算して加温を始め、意図的に収穫時期を設定することができます。2年前から長男がこれに挑戦していて、お盆時期の収穫を実現しているところです。今後は路地ものとハウス栽培を組み合わせ、お客様からご要望の高いセットをいつでもご提供できるようにしていきたいと考えています。

親子三代 それぞれの役割 それぞれの使命

−ご長男の誠光さんにもお話しを伺ってみましょう。ぶどうの品種についてや、桧山果樹園さんならではの生産の特徴などありましたら教えてください。

誠光さん ぶどうは「シャインマスカット」「巨峰」「常陸青龍」の3種類がメインです。ここは山際のやせ地で、梨やぶどうは自分たちが与えた肥料しか食べることができません。祖父の代からいろいろな肥料を使ってきました。ただ、やせ地ならではの利点もあります。土の中の不要なものを減らすことは難しいけれど、逆に足りないものを加えることは比較的簡単で、植物の生育には効果的なのです。今は味に深みが出る馬糞を使った堆肥を与えているのですが、その効果がダイレクトに味に響くのを実感しています。  年間を通じてたくさんある作業のなかで最も気を使うのが枝の剪定です。梨もぶどうも11月になって葉がすべて落ちると、翌年のために伸び切った枝を揃えてあげるのですが、これが翌年の実のつき方に直結します。梨はある程度伸びる枝の見通しがききますし、樹勢が強いので強めに剪定できます。ぶどうは新しい枝がどこに向かって伸びるのか予測がつきません。剪定が強すぎると花ぶるい(枝の伸びる勢いが強すぎて花が落ちてしまう現象)を起こしてしまうなど、梨よりも手入れに神経を使います。うちの場合こうした作業は同時期に父と一緒にやりますが、基本的に父親が梨、自分はぶどうと、お互いに専門性を保ちつつ関わっているので、どちらも極めていける環境にあると思います。

−誠光さんは東京農大を卒業後すぐに実家へ戻り就農されていますが、大学で学んだことはどのように活かせていますか?

誠光さん 大学では新しい品種を作るなどの研究が主でしたので、実際の仕事は現場で学ぶことの方が多かったですね。常陸太田には梨の人もぶどうの人もたくさんいるので、年が若いうちに聞けることはなんでも聞いて覚えたいと、祖父や父以外にもたくさんの先輩方に教えを請いながらやっています。しかし弟がいちごを始めるにあたり、その道のスペシャリストの元で研修させていただくことができたり、農大に行ったからこその知識はもちろん、人脈の面でも恩恵を受けていると思います。

−大学卒業直後から実家に戻られて今の仕事をされていますが、日頃感じていることなど教えてください。

誠光さん 祖父が始めた梨とぶどうの栽培を父が軌道にのせ、セットで買える桧山果樹園として知られるようになりました。自分の使命は、今後いつでも両方が揃っている状況を作っていくことです。うちの梨とぶどうの生産比は3対1で、今はまだ8月中はお盆時期にだけピンポイントでぶどうも出せている状況です。将来的には梨の期間中にはぶどうも欠かさない体制を整えて、いつお客様がいらしてもセットでお求めいただけるようにしていきたい。これだけ生産者がいるとナンバーワンになるのはたいへんなことですが、うちみたいに両方作っているところはあまりないので、この路線を高い品質で続けていけばオンリーワンの存在にはなれるのかなと。そうなれるためのことをしていきたいと思っています。

桧山果樹園の新しい彩り 日々進化をめざして

−梨とぶどうの桧山果樹園ですが、8年前からいちごの生産も始まりました。担当は三男の貴臣さん。大学では果樹を学んでいたそうですが、いちごへと方向転換を決めた経緯を教えてください。

貴臣さん いずれ実家に戻るつもりで、大学では果樹の勉強をしていました。ただ卒業時にまだ実家の方で自分の受け入れ態勢ができていなかったもので、卒業後のことを大学の先生に相談した際に、「桧山のうちは観光農園だから、梨とぶどうの季節以外にも人を呼べる作物を手がけたら良いのではないか」とアドバイスを受けました。観光で販売期間が長くとれる作物ということで、もう一年いちごを学び直すことにしたのです。その後兄の紹介で、東京農大で客員教授も勤められているいちご栽培の大家、三上光一先生の農場で1年間研修をさせていただきました。その後実家へ戻っていちごの栽培を一から始めたのです。 主な作付品種は「とちおとめ」、「いばらキッス」、「ひたちひめ」、「白いちご」などです。現在ハウスは全部で13棟、総面積は30アールほどで、今年8作目を終えたところです。例年11月から4月末までの期間、梨やぶどうと同様に、当園の直売所、常陸太田の道の駅、市内スーパー等で販売しています。最近は「いばらキッス」や「白いちご」の人気が高いですね。

−三上さんのところで学んだことで、たいせつにされているのはどのようなことですか?

貴臣さん いちご作りのノウハウは土作りから苗作りまで、基本的にすべて三上さんのやり方を踏襲しています。研修期間中にいつも言われたのは「桧山のうちはいちごのことはわからないんだから」ということ。つまり実家に戻っても頼りになるのは自分しかいないのだから、この1年でしっかり学んでいけよという意味で、必死に過ごした厳しい1年でした。 土耕栽培ですから、最もたいせつなのは土づくりです。常陸太田に戻って就農した時点から、地元の先輩農家に紹介していただいた堆肥屋さんに相談し、土壌中の微生物を活性化させるような土づくりを目指しています。今のところそのやり方で連作障害も起こさずうまくいっていますが、年を重ねるごとにどんどん良い土に育てていきたいという思いがあり、毎年少しずつ自分なりにアレンジを加えているところです。

−8作目が終わったところで、満足のいくいちごはできましたか?

貴臣さん おかげさまで今は梨やぶどうと同様に、その時期になるといちご目当てで来てくださる方も増えました。お客様はおいしいいちごだと言ってくださいますが、自分的にはまだまだ。研修先に生育状況を報告しても「それはまだまだお前の勉強が足りない」と言われます。苗が違えば水のかけかたも違うし、与える肥料も変わってくる。数値でわかることもありますが、感覚で捉える部分も大きいので、それが難しいところです。味、香り、食感、全てを総合したおいしいいちごを作るために日々手をかけていることを、最終的に言葉ではなく、いちごで表現しなくてはならないと思っています。例えば「とちおとめ」は全国で作られていますが、「桧山さんちのとちおとめがいいよね」というふうになりたい。桧山果樹園のだから間違いないと思って買っていただけるような存在になりたいと思っています。 新しくいちごを始めるときは多少とまどいもありましたが、やるからにはこだわりをもって高みを目指したい。ハウス内には試験区を作って、より良いいちご、お客様に望まれるいちごを作るための試行錯誤をしています。次は9作目となりますが、年々少しずつ変わっていく部分をみていただけたらうれしいです。味が落ちることがないように毎日やっているので、今の味を来年は越す可能性があると思います。土作りも年数をかけて良くしていくものなので、年々レベルアップしていくイメージで頑張っています。

【取材録】

最初に取材した三男の貴臣さんからは、「自分はいちごをゼロからスタートさせた。たいへんな反面すべて自己裁量でできる自由さがある。その点兄は、祖父と父が築いてきたものを引き継ぐ責任の重さなど、違うたいへんさがあると思う」と、長兄を気遣う言葉が聞かれました。次にお話をうかがった誠光さんからは、「うちのメイン品種である幸水の時期にいろいろなぶどうを絡めていけるようにしたい」と、お祖父様やお父様の方針を尊重しつつ、自分なりにも新たな道を拓いていきたいという抱負が語られました。
家族農業経営は時に閉塞感をもって語られることも多いものですが、桧山果樹園においてはそれぞれが専門分野における生産性の向上を目指し、お互いを尊重し合いながら、新しいことも柔軟に取り入れる風通しの良さが感じられました。梨狩り、ぶどう狩り、いちご狩りもやっています。年々進化してゆく桧山果樹園に是非一度足を運んでみてください。

■桧山果樹園
〒313-0025
茨城県常陸太田市幡町1014
TEL.0294-33-5357
桧山果樹園WEBサイト:https://hiyamafarm.bannou.design

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