花き園芸農家にとって「ムラカミシード」の球根や種は欠かせない存在です。花き専門の種苗会社として成長を続けてきた同社は華やかな花の世界を支える数々の新品種を開発。その市場は全国から世界へと広がっています。生活に潤いと癒しを与える花のある暮らしを提供するために、日々研究と育種を重ねる種苗会社。茨城発の種が世界各地へと輸出されていることは余り知られていないようです。同社の社長・村上忠義さんは「1品種の開発には10年は掛かります」と、花き種苗の開発の苦労を語ってくれました。
グラジオラス球根からスタート
-ムラカミシードさんの沿革をお聞かせ下さい。
村上さん 1953(昭和28)年に大手の第一園芸との契約でグラジオラスの球根の生産を始めたのが最初です。父親の代でしたが、社長としては私が3代目となります。当時は食料増産の時代で花は受け入れられなかったのですが、1955年には農事組合法人を設立し、59年には茨城県輸出グラジオラス球根協会を作り海外への輸出も始めました。第一園芸は元々、三井系の種苗会社で私どもはその下請けのような関係でした。のちに私たちが第一園芸の種子部門を受け継いで、今の会社の形態になりました。
-花の球根栽培というのはどのようなものですか?
村上さん 連作障害が出るために次々と農地を替えることが必要です。産地を移動させなければならないので、契約農家さんも多く抱えることになります。その後、グラジオラス球根の自由化が始まり、オランダなどから安い輸入品が国内に入ってきて、いろいろな花きの苗などを扱うようになりました。さらに78年に茨城園芸株式会社を設立し、研究農場や直売所の「花みどり」を水戸市鯉渕に開設しました。
日本的な習慣に需要の増す花市場
-グラジオラスは今でも人気の品種ですね。
村上さん 実は茨城はグラジオラス球根生産では日本一の産地なのです。茨城や栃木、福島県で栽培が盛んですが、連作ができないとか生産者の高齢化などの問題も抱えています。一般の畑作と違い手間も掛かり消費者の嗜好や天候にも左右され、最盛期の10分の1に減ってきてはいますが、花の栽培が盛んな地域には変わりません。輸入に押されて厳しい状況は続いていますが、頑張っている生産者も多いのです。
-花の市場の動向はどのようなものなのですか?
村上さん 年間を通して花の需要期は一番が3月のお彼岸、二番目が年末、三番目に夏のお盆の時期、その次ぎに秋のお彼岸となります。単発的には母の日のカーネーションなどもあります。昨年は夏から秋が短くすぐに冬がきてしまい切り花栽培農家は作柄が遅れてしまいました。そのため冬場の需要期は価格も高くなった傾向がありました。
国際的な交流も盛んに
-御社は海外の会社とも取り引きされていますね。
村上さん 海外の種苗会社とも取り引きしています。アメリカ、オランダ、ドイツ、イギリス、デンマーク、中国、イタリア、フランスなどさまざまな国の種苗会社と輸出入を行っています。種苗会社の国際的な合併・統合なども進んでいて、窓口が少なくなっているのが現状です。国内のマーケットも小さくなっており、現在弊社の約10%は海外へ販売しています。
-海外への輸出はどのようなものですか。
村上さん 国によって気候も違えば、花の趣向も違っています。気候風土に合わせて栽培できるかどうかは実際に作って見なくてはならないという問題もあります。それに耐えられる品種を開発することも大切です。茨城は高温多湿で冬場はマイナス14~5度くらいになる土地柄ですので、育種には向いているのかもしれません。そのため、品種改良の研究に向いています。今は球根から種の販売へと移ってきています。10トントラック一台分の球根が種ならアタッシュケース一つで済みますから。
10年先の流行を作る
-花きの種苗の開発はどのくらい時間がかかりますか?
村上さん 花は単純におしべとめしべの交配ですが、いろんな可能性を秘めています。しかし一つの品種の改良には最低でも7年、普通でも10年は掛かります。農家さんと試作を続けて10年ほどで新商品を開発します。つまり、その花は10年後に受け入れられるのか、未来の嗜好や流行に合っているのか、ブリーダーは日々努力して将来の花需要を見据えているのです。一代交配のF1は別ですが、固定種については品種登録もしなくてはいけません。種苗の世界でも国際ルールが明確化しており、他国に真似されない品種開発も求められています。
-花き種苗会社の将来はどのようにお考えですか?
村上さん 種はすべてのものごとの始まりです。弊社ではこれまで球根が主流だった鉄砲百合の種子からの開発もしております。仏壇やお墓に添える花にユリの花が入るだけで、高く売れることもあります。茨城には花の市場で一世を風靡した栽培農家さんもいます。そのような栽培農家さんとも協力して10年後の流行を作れるのか、特徴を出しにくい分野ですが、自ら開発していくことが生命線だと考えています。
【取材録】
お花屋さんは私の子ども時代の女子にとって将来なりたいあこがれの職業のひとつでした。花は生活に安らぎを与えてくれ、野辺に咲く花たちも古くから和歌や絵画にも描かれ、人々の生活とは切っても切れない関係を築いてきました。茨城県内に花き専門の種苗会社があることは最近知ったことでしたが、この開発普及には栽培農家や研究者たちの熱い想いがこもっていました。農業の一分野である花き栽培ですが、食とともに花の存在感の大きさも思い知りました。
■株式会社ムラカミシード
茨城県笠間市大田町341
Tel.0296-77-0354(代)
Fax.0296-77-1295
ホームページ/http://www.murakami-seed.com/