日立市東大沼町の納豆製造会社。代表の菊池さんはよく「僕は”納豆”を作ろうとしてるわけじゃない。大豆の力を生かそうとすると、結果的に”納豆”ができるんだよ」という言い方をされます。前者の”納豆”は発酵した糸を引く豆のことであり、後者は大豆の味と栄養価をより高めることが目的で、そのために納豆菌を利用した結果だと。それぞれの目指す到達地点には、大きな隔たりがあると語ります。
もの言わぬ子を育てるように
ーご自身が開発された独自の製法で作られているそうですが、菊水食品さんの納豆の特徴を教えていただけますか。
菊池さん 当社の納豆は、原材料をだいじに生かし、皆様においしいと言っていただける納豆。ひと言で言ってしまえばそれだけなのです。そのためにはどうしたら良いか。その点を究めていった結果、独自の製法に至りました。大豆は人と同じように種類によって性格が違います。納豆菌もまた生き物ですから、その日の温度湿度によって状態が変わります。まずは納豆作りに適した味の良い大豆を選び、その豆の個性に合った処理を施します。そして菌を植え付けてからは、温度と湿度の調整をきめ細かに行います。当社のような小規模な所だからこそ可能な、手厚い管理の下で育てた納豆には、雑臭やアンモニア臭の原因物質がほとんど含まれていませんので、皆さんが想像される納豆の匂いとはまった く別物と感じられると思います。鼻先まで寄せればかすかに大豆の香りがする仕上がり、この点が当社の納豆の最大の特長です。
SNSがもたらした新たな展開
ー匂いのない納豆という点が著名な和食料理人の目にとまり、新しい納豆製品が開発されたそうですね。
菊池さん はい。老舗日本料理店「日本橋ゆかり」の三代目である野永さんにより、「万能納豆タレ」というまったく新しい液状の納豆製品が創り出されました。匂いの強い食材は避けられる和食の世界で受け入れられたこと、当社の納豆ならではの快挙とたいへん嬉しく思っています。刺身醤油にしたり、ドレッシングに使ったり、ご飯や麺にあわせたりと、まさに万能に使える納豆醤油。既にお店でお客様に出されていた白と黒の2種類は、白は当社の海洋ミネラル納豆と海洋ミネラル納豆ミニ2。黒は黒豊という商品から作られたものです。ゆかりでお食事をされる舌の肥えたお客様にもたいへん 好評で、また海外からのお客様にも喜んでいただいているようです。新たに開発されたキムチ味の赤が加わり、白、黒、赤、3種類揃ったところで商品化され、発売が開始されたところです。
ー野永氏とはfacebookを介してご縁ができたそうですが、他にもそのような展開があるのでしょうか。
菊池さん 市の広報活動にfacebookを積極的に活用されている佐賀県武雄市があります。被災地復興支援のために茨城を訪問された武雄市の樋渡市長との実際の出会いから、武雄市とのコラボ商品を作ることになりました。実は佐賀県は北海道に次ぐ大豆の生産地。武雄市にも良い大豆がありました。それを当社が納豆にして、武雄市が管理するfacebook上のインターネットページ「FB良品」で販売することになったのです。地方で頑張っている人の活動や良い品を知ってもらうために、SNSはそのきっかけ作りとして有効だと思い活用しているところです。
地元茨城への愛着
ー納豆の原料となる大豆はすべて国産ですか。
菊池さん 茨城にとって納豆はたいせつな伝統食。決して絶やすことなく、これは美味しい!と言われるものだけを世に出して、名実伴に茨城産が一番であってほしいと願っています。ですから原材料の大豆もできるだけ茨城産を使いたい。現在は茨城産納豆小粒と黒大豆に加え北海道産のすず丸という3種類の大豆を使っていますが、新たに1種類増えるところです。元は信州産の鞍掛(くらかけ)という大粒大豆です。馬の背に鞍をかけたように白地に黒い模様がある豆で、蒸煮すると黒部分のアントシアニンが溶けて全体に茶色になるのですが、味もよく栄養価も高いので、何とか茨城産にしたかった。生産者に依頼して今年度からまとまった収穫が得られるようになりましたので、鞍掛も茨城の大豆に なりました。これまで試作を重ねてきましたが、これで遅くとも1月には販売できると思います。大豆の旨さがしっかり味わえる大粒の納豆を、皆様にご紹介できるのが今から楽しみです。
【取材録】
冒頭の「納豆を作ってるわけじゃない」は、始めは難解に思えましたが、原材料へのこだわりや、納豆といえば茨城という全国的な認識がありながら実情は決して誇れることばかりではないジレンマ、自分の定義する高い品質と社会通念とのギャップなど、複雑な思いがこのひと言には込められていたのでした。作る、育てる、広める、変える、納豆を取り巻くあらゆることと日々格闘の菊池さんです。