いばらきの生産者

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日立市西部の下深荻地区(旧中里村)。里川の西方にはリンゴ、ブドウ、柿、柚子などの果樹を栽培する農家が20軒ほどあり、その多くがもぎ取り体験のできる観光園を営んでいます。「日立中里フルーツ街道」という名がつけられたこの地区で、唯一ブルーベリー専門に栽培している「てるてるファーム」のオーナーは鈴木照代さん。畑仕事とはまったく無縁だった主婦が、夫の故郷への移住を機に、50代半ばにして一から農園を作りあげました。お客様が自ら摘み取った分だけ購入していただくという販売方法に限定することで、手のかかる無農薬での栽培、広大な敷地の管理、まるで友人をもてなすような接客まで、すべてを1人で切り盛りしています。

また来たくなる、特別感のある場所づくり

——道路脇の斜面に立てられた「てるてるファーム」の看板。そこから急な坂道を上がりきったところに照代さんのお宅はあります。斜面にあるブルーベリー畑も整然としてきれいですが、お庭も素敵に整備されていますね。
 
鈴木さん 会社員だった夫は転勤も多く、ここへ越して来たのは2003年、夫が55歳になってからのことです。当時は義父が1人で暮らしていたのですが屋敷周りのことまでは手が回らない状況でした。私は以前からオープンガーデンに好んで行ったり、お花に興味をもっていましたので、義父のお世話のかたわら、庭に手を入れるようになりました。門前には多種多様な草花でイングリッシュガーデンを作り、家の前はなるべく雑草が生えない、手がかからないすっきりした庭をめざして、ギボウシやクリスマスローズなどを植えています。
 
 ブルーベリーの栽培を始めたのは2008年のことです。ご近所の農家の方から声をかけられたのがきっかけです。この辺りはリンゴや柿、ブドウなど、秋の果物の産地ですが、春夏も人を呼べるような新しい作物も展開していこうということで、ブルーベリーの大家として有名なかすみがうら市の坂農苑さんから、200本の苗を購入して始めました。
 
斜面にある畑の下の方は、皮が薄くて粒が大きくなるハイブッシュ系の木をメインに、特徴の異なる5品種を列植してあります。品種による味の違いがはっきりと感じられると思いますので、どうぞお好みの味を選んで摘んでください。後から植えた斜面の上の方には、中粒で暑さに強いラビット系の木を入れています。それぞれ実のなる時期が異なり、例年6月中旬からお盆前くらいまで収穫できます。品種によってはもちろん、同じ木でも熟し具合によって味が違うので、たくさん食べ比べてみてくださいね。
 

 

お仲間に助けられながら、一歩一歩積み重ねて今がある

——畑の広さはどのくらいあるのですか?農業経験のない会社員の奥様が、よく最初から200本もの苗を植えて始めようと思われましたね。
 
鈴木さん 現在は約2反歩の広さに260本ほどの木があります。当時は畑が雑草だらけで放置されているのをどうにかしないといけなかったし、ちょうど義父の介護のためにパート勤めも続けられないと考えていた頃にいただいたお話でした。パートに出る代わりにやってみよう、家事や介護とも両立できるだろうと、あくまでも主婦感覚で始めたことでした。
 
ブルーベリーは植えてから3〜4年は木の成長に栄養を回すため、実を生らさなくてもOKということでした。その間は良かったのですが、いざ実を生らして収穫を始める年になると、色づいた途端、あっという間に鳥に食べられてしまいました。あわてて義父がリンゴの栽培で使っていた網を被せましたが、目が4センチ四方もあるネットでは鳥が入ってきてしまう。次に3センチのに代えましたが、それもだめ。結果的に2センチにしてやっと用を足すようになりました。
 ネットを張るためのポールも最初は夫と2人で山から竹をとってきて、手作りでやっていました。市販のポールに切り替えた時も小さなハンマーで打ち込んでいましたら、見かねた知り合いが「そんなんじゃだめだよ、もっと簡単にやるんだよ」と効率的なやり方を教えてくださったり。庭先に置いたパラソルやガーデンテーブルも必要に迫られて徐々に増えてきたもので、最初の頃は日曜大工が趣味の方がここに通って、縁台やテーブルを作ってくださったり。
 

 
里山の原風景にいだかれて頬張る、無農薬のブルーベリー
 
——農薬は一切使っていないとのことですが、害虫対策などはどうされているのでしょうか。
 
鈴木さん 一度カイガラムシが着いた時があり、その時は手作業で、ナイフで全部削り落としました。それから有機の農薬としてマシン油を使うようになりました。それでも昨年はイラガが集団発生してしまいました。真っ黄色で小指ほどもあり、葉が全部食べられてしまいます。これも1匹1匹手作業で取りました。たいへんですよ。でもそこまでしても、農薬散布などしたくないんです。特にブルーベリーには絶対使いたくありません。木から摘んで、そのまま口に入れたいですからね。
 
 鶏糞などで土作りを行い、毎年春先に30トン程、枝木を剪定した木材チップを畑の表面に敷き詰めています。ブルーベリーは根が浅く乾燥に弱いので、根の保護と雑草防除に役立ちます。約1年で土に還るので、自然の堆肥にもなってくれます。この木材チップの副産物として、毎年500〜600匹ものカブトムシが発生するんです。羽化のシーズンの1週間くらいは、毎朝ネットに取りついたカブトムシを集める作業が加わります。山に放しても良いのですが、あまりに数が多いので、子供たちが喜ぶレジャー施設などに引き取っていただいています。
 

友人を迎えるような気持ちで

——ブルーベリーを摘み終えて畑から戻ると、庭先のテーブルでコーヒーや手作りのお菓子をおふるまい。支払いを済ませた後も、皆さんのんびりと過ごされていくんですね。
 
鈴木さん ブルーベリーの木が育ち、摘みとりが始まったのが2011年からです。震災直後でしたが、たくさんのお友達が来てくれました。その方々が別のお友達や、ご家族を連れてまた来てくださる。それぞれに輪が広がっていくという感じで今に至っています。
無農薬のブルーベリーを目当てに来てくださるということはもちろんですが、多くの方はこの風景があってこそ何度も足を運んでくださるんだと思うんです。だから居心地の良い場所であるようにお庭もきれいにしておきたいし、せっかく遠路はるばる来ていただいたんですから、どうぞごゆっくりと、お茶のひとつもお出ししたくなりますよね。お茶菓子も最初は町まで買いに行っていたのですが、今はブルーベリーをホワイトリカーに漬けたものと、甘みのアクセントにラム酒に漬けた干しぶどうを入れたパウンドケーキを焼いてお出ししています。
 
ブルーベリーを始めた当初は、水戸まで仕事に通っていた夫の手を時々借りながらでしたが、その夫も亡くなって今は完全におひとり様。限界集落のなかでこのエリアを維持していく私にとって、すべてを1人でやるのは確かにたいへんです。でもこのブルーベリー園があるからこそ生きる張り合いもあるのです。いつまで続けられるかわかりませんが、「おいしいね」「きれいね」と、毎年来てくださる方々とお話しできるのが、大きな喜びでもあるんです。
 

*完全予約制。お電話にてお問い合わせ下さい。

【取材録】

国道から日立中里フルーツ街道に入ると、山の緑がいっそう厚みを増して迫ってきます。でもただ緑が濃いだけで人を呼べるものではありません。旦那様が単身赴任の時期もあったなか、2人のお子さんを育てあげた日々、照代さんが培ってきた自立心と美的センスがあってこそ、「素敵なところね、また来たいね」と口コミが広がってきた「てるてるファーム」です。ティーカップの下に敷かれたマットも、照代さんが柿渋で染めた糸を、自前の機織り機で織った手作りの品。取材中何度も「すべて成り行きです」とおっしゃっていましたが、成り行きを柔軟に受け止め、自分の価値観に照らし合わせ、良いと思うことには手を抜かない、そんなつよさがあればこそだと思います。庭を眺めていた方が「素敵よねー、この空間が」と言いながらのんびりくつろぐ姿は、まるでリゾートのカフェのよう。帰り道、私もまた来ようと思いました。

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