COLUMN 01 未来農業報告書

HOMECOLUMNCOLUMN01 > 鮮度抜群・風味絶佳の「黄門ちゃ豆」

 初夏になると店頭に並び始める枝豆は、夏の風物詩ともいえる日本の国民食。未成熟の大豆を食べる食文化はアジア諸国に伝わってきたものですが、近年の日本食ブームの影響をうけて今では欧米を中心に世界各地で愛されるようになり、「EDAMAME」は万国共通語となりました。
 特色ある産地としては山形、新潟、丹波などが知られており、収穫量の多い都道府県は北海道、群馬、千葉といったところ。しかしここ茨城県にも他とは一線を画す品質で、「格別においしい枝豆」と、市場の仲買人やスーパーのバイヤーなど、食のプロから高く評価されている枝豆生産者がありました。
 枝豆は収穫した後も生命活動が活発で熱を帯びる特性があり、時間と共に香りや糖度が急速に低下してしまうデリケートな品目。そんな枝豆の難点を、冷凍食品会社としてのメリットを活かしたコールドチェーン(低温物流体系)によって、鮮度抜群に出荷している水戸冷凍食品です。SDGsを意識した自然栽培に近い農法で、高齢化が進む地元の農家の支援にもなりながら、栄養豊富で味の濃い、茶豆風味の枝豆「黄門ちゃ豆」を販売しています。

唯一枝豆だけ生鮮で扱っている理由とは

―まずは御社の事業内容について教えてください。また冷凍食品が専門ということですが、なぜ枝豆だけは例外的に青果でも取り扱っているのでしょうか。

 弊社は、自社農場および契約農家で生産するほうれん草や小松菜などの葉物野菜類、芋類、根菜類、豆類などの作物を、業務用の素材として冷凍カット野菜に加工している会社です。大手食品メーカーやレストラン、学校給食やこだわりの生協などにも卸していますので、知らず知らず当社の商品を口にされている方も多いのではないでしょうか。
 枝豆を扱うようになったのは15年ほど前からです。この地域で枝豆が採れるのは例年6月から7月にかけての1か月半程度で、その間に1年分の枝豆を冷凍加工しています。期間中は毎日、大量の枝豆を塩茹でにして急速冷凍。収穫から冷凍までにかかる時間を可能な限り短くすることにより、自然解凍していただくだけで採れたて、茹でたての味をお楽しみいただけます。

 ある年、枝豆の出来が非常に良く、冷凍加工の処理能力を超えてしまった時があり、市場にお願いして青果で販売していただくことになりました。その枝豆がお客様に好評で、「ぜひこれからも生鮮品で出して欲しい。都内にも持っていきたい」と言っていただき、太田市場でもたいへん高く評価されたのです。
 弊社の「黄門ちゃ豆」は、湯あがり娘という品種です。莢(きょう・殻の部分)も豆も緑色ですが、茶豆特有の芳香があり、甘みもつよく、生産者にも人気のある品種です。ですから他にも作られている生産者さんは多いのですが、食に精通する大田市場の仲買人の方から「これ本当に同じ湯あがり娘?」と不思議がられ、それほどに食味に違いを感じるという感想をいただきました。
 すぐに「おいしいし値段も手頃だし、明日200ケースお願い、300ケースお願い」と注文が入るようになり、そうしたご要望に対して素早く対応できるということにもたいへん驚かれました。なぜなら枝豆は収穫後に枝葉を取り除いたり、選別したり、出荷までにたいへん手間のかかる作物ですので、こうした大量注文に応じられる農家さんはあまり多くはないのです。当社が日頃から、枝豆でしたら日に3〜4トンはさばける能力のある冷凍食品会社だからできたことでした。

 

 

地球循環型農業への取り組み

―先ほど枝豆の収穫風景を見学させていただきましたが、畑にはたくさんの雨蛙や昆虫、周辺には食べられる野草が生えていたりと、自然の営みが色濃く感じられました。御社ならではの栽培のこだわりがありましたら教えてください。

 圃場は自社農場と契約農家、合わせて約30ha程あり、一つの地域としては県内最大規模ではないかと思います。連作障害を避けるためにそれぞれの畑の状態によって対応を変え、ある年はソルゴーという稲科の植物を育てて緑肥としてすき込んだり、ある年は休ませたり。那珂川流域は元々肥沃な土壌でもありますし、極力自然の回復力を利用した土づくりを行っています。
 堆肥は鶏糞や籾殻、信頼する畜産農家からの牛糞、自社工場から出る廃棄野菜等を利用した発酵堆肥を作り、契約農家の皆さんにも使っていただいています。原料の有機性廃棄物は捨てればゴミですが、有効活用することで少しでも環境保全に役立つことを目指し、地球循環型農業(食品廃棄の原料やリサイクルに協力した取組)の一環として行っています。

 契約農家は近隣の方がほとんどです。高齢の農家さんには虫や草の防除と除草作業だけをお願いする管理委託という形で協力していただき、出来たものはすべて買い取ります。播種はできる方にはお願いしていますが基本的には弊社で。収穫に関しては完全に弊社のスタッフがすべて行います。鮮度保持のために短時間で作業を進める必要がありますので、大型の刈り取り機械を持ち込み、1時間におよそ1ha、1日5t近く(選別前)の収穫が可能です。

 収穫した枝豆はすぐさま工場へ運び入れ、枝葉を取り除いて洗浄。1回目の選別を行うとすぐに冷蔵庫に入れます。まずは枝豆の温度を下げてから、薄さや大きさをふるって選別するホッパー、色彩により異物を取り除くセンサー、その間に何度も人の手による選別も通過しながら、最終的に粒揃いの良いものだけを袋詰めして出荷となります。この間ずっと、そして輸送から納品に至るまで一貫して保冷状態にある点が、「黄門ちゃ豆」の最大の特徴です。
 同じ品種にも関わらず特別においしいと言っていただけるのは、できるだけ自然な環境下で作物が生きる力を最大限に引き出す栽培法に加え、収穫後すぐに鮮度を閉じ込める冷蔵技術と、それを維持したまま売り場までお届けできるコールドチェーンにあると考えています。

 

 

枝豆本来の味と香り、鮮度をキープ

―噛むほどにふくらむ甘味と茶豆のコクのある風味。この味を支えているのがコールドチェーンなのですね。その点についてもう少し詳しく教えて下さい。

 収穫してから冷蔵庫に入れるまで最長で4時間。通常2〜3時間以内には急速冷蔵をかけて3~5℃まで温度を下げて、枝豆の生命活動を休止させることで鮮度維持を計ります。それから選別作業となりますが、急速凍結機や識別センサー等、弊社の本業である冷凍食品の品質に関わる機械は最新鋭のものを備えていますので、それが青果物としての枝豆の商品化にもたいへん役立ったというわけです。大量の枝豆を迅速に処理できる環境が整っていたおかげで、鮮度が良くておいしいと評判になり、皆さんがどんどん拡散してくださいました。

 輸送に関してももちろん保冷車で、発泡スチロールのケースに保冷剤を詰めて出荷していますので、店頭に並ぶ直前までコールドチェーンが続いています。欲を言えばお店でも冷蔵の棚に置いていただければ完璧なのですが。
 この保冷剤も弊社の場合はいくらでも調達できますが、そうでない生産者の方にとってはコスト面で大きな負担となり、同じようにやろうと思うと価格に反映してしまうと思います。また、水戸が太田市場に近いということも有利に働いています。どんなに素晴らしいブランド作物であっても、生鮮品はやはり鮮度が一番。輸送時間はできるだけ短い方が良いですから。

―御社では冷凍枝豆の扱い量の方が圧倒的に多いわけですが、宮田さん個人としては、生鮮と冷凍、どちらがおすすめですか?

 どちらにも良い点があり、一概に決めるのは難しいですね。生鮮ですとやはり採れたての風味が強く、自分好みの茹で方や塩加減が楽しめます。私は硬めが好きなので、茹で時間は1分ちょっととかなり短いです。立ちのぼる湯気の香りを楽しみながら、茹でる時間そのものが夏っぽくて風情がありますよね。
 冷凍は冷凍で、一年中いつでも手軽に食べられるという便利さは勿論のこと、弊社独自の製法により豆そのものにほんのりと塩味のついた、間違いのないおいしさをお届けしていますので、自分で茹でるよりおいしいと言ってくださる方も多いです。旬の時期には旬の風味と趣を味わい、それ以外の時は冷凍で、一年を通して楽しんでいただきたいです。
 

【取材録】

 収穫は作物の生理に大きな変化をもたらす行為。切り離されることによって水、養分、光などの環境が激変した作物は、栄養分の蓄積を使って呼吸をはじめとする様々な生命活動を続けようとするため、時間と共に鮮度が低下していきます。枝豆はその現象が著しいのだとか。大地に根を張りたっぷりと蓄えた糖分や芳しい香り、タンパク質やビタミン、葉酸、カリウムなどの良質な栄養分が減少してしまう前に、低温下に置いて休眠させてしまうのが、水戸冷凍食品ならではの味の秘密でした。
 大人も子供も大好き、栄養豊富で手軽さも魅力の枝豆。普段何気なく食べているものですが、「黄門ちゃ豆」の1袋には多大な企業努力が込められていたことを知りました。おいしく育った「湯あがり娘」が魔法をかけられて「眠り姫」となり、どこかの食卓で目を覚ました時にはとびきりの味と香りで喝采を浴びている。そんな妄想を浮かべつつ、今夜はいつもより丁寧に枝豆を味わおうと思います。

水戸冷凍食品株式会社ホームページ
http://www.popai.co.jp

黄門ちゃ豆ウェブページ
https://bannou.design/koumonchamame/

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