ブルーのライトだけが光る実験室のような空間。そこは「ぶなしめじ」を大きく成長させる“発生ルーム”です。棚にずらっと敷き詰められたぶなしめじ。丸いカサが並ぶ姿は思わず微笑みたくなる可愛さです。きのこは生き物、と話す『鬼澤食菌センター』の専務 鬼澤宏さんは、毎日、目をかけ、手をかけ、注意深く観察し、温度や湿度を調整しながら「ぶなしめじ」を育てています。建物が変われば管理の仕方も変わってくるという繊細なぶなしめじ。色、形、弾力のある歯触りは日々の細やかな管理のもと作られています。
鬼澤食菌センターの創業は昭和51年。ぶなしめじの生産を専門に行っています。それ以前はごぼうを中心に路地栽培を行っていました。天候に左右されない農業を模索したところ、しめじ栽培に辿り着いたと言います。品質の良さが評価され、北関東初のローソンファーム設立、最先端の冷凍技術を使った加工も行っています。
日々の管理が品質につながる「ぶなしめじ」の栽培
−きのこの栽培現場を初めて拝見しました。ブルーのライトが実験室のようですね。ぶなしめじはどのように栽培されるのでしょうか。
鬼澤さん:
「ぶなしめじ」は菌を植えてから113日前後で収穫します。まず、オガ粉、水、おからなどを混ぜ合わせ、しめじを栽培するための培地を作ります。それらを攪拌してビンに詰め、殺菌、放冷をしてぶなしめじの菌を植えます。培養ルームに移し90日間培養させます。その後、発生ルームでぶなしめじを大きく育てます。発生ルームに入ってからは23日で収穫。収穫時は朝みんなで一気に取ります。1日5,000株を収穫するという目安で作っています。秋冬のシーズン時はもう少し増えますが、培養日数のことを考えるとそれくらいが管理しやすい数ですね。容器を持ってキュキュッと回しながら収穫し一度取った菌床は畑の堆肥として循環されています。
弊社では主に、千曲化成(ちくまかせい)さんのぶなしめじの菌を使っています。傘の形が横広で薄く色が少し黒いのが特徴です。キャップがある瓶の使い勝手がよく、形が綺麗に整うのと、収穫するときに取りやすくて重宝しています。一株の量は重さで計って決めるわけではなく、収穫される日数でだいたい同じ量、大きさが揃います。一つだけ大きいのが出ていたらそれを取り除き、形を整えます。取り除いたぶなしめじはそれだけで集めてジャンボぶなしめじとして、加工品については全部カットしバラして袋詰めして販売しています。
ブルーのLEDライトは、カサと茎の大きさのバランスを調整するのに使用しています。真っ暗だと、足ばかりが伸びてエノキみたいになってしまいます。ブルーの光を当てることで、茎が伸びるのを抑える効果があるんです。品種によって当てる時間など様々ですが、点けたり、消したり、カサと茎のバランスを見ながら照射する時間を調整していきます。ずっと点けたままにする品種もあります。元々は普通の蛍光灯でやっていた時代もありました。ライトが他の色、例えば赤だと育ちが悪くばらつきが出てしまいます。このブルーのLEDの周波数が合っているようで、この色が栽培に一番効果的でした。白色のライトは、作業上の明かり取りのために使っています。
納得のいく「ぶなしめじ」を求めて、実験のような日々
−味の差を出すのに何か工夫していることはありますか?
鬼澤さん:
色、形、味の良いもの、弾力のある歯触りにこだわり、日々、その日の天気によって温度や湿度の調整をし、湿気の多い日は湿気を抑えたりしながら、生育環境を管理しています。同じ「ぶなしめじ」でも種類はいろいろ。その品種にあった調整をしていくことを心がけています。例えば、形をよくするには、1時間で空気を何分入れて酸素量をどのくらい多くすればいいのか。歯ごたえを良くするには、ここで水分をいかに抑えられるか。LEDライトの照射時間をどのくらいにしたらカサと茎のバランスが良くなるかなど、加減、調整はいくらでもあります。温度が上がり休眠したきのこは育たなくなってしまったり、空気を与えすぎればバラバラになって荒れて丸くならなかったり。きのこは生き物なので結構シビアです。
培地に使用するオガ粉によっても変わります。弊社は県内産のオガ粉を使っています。製材屋さんなど、専門の業者さんから集めています。オガ粉の他にオカラなど5種類混ぜて培地にしています。形や芽数にかなり影響します。オガ粉を使わず、とうもろこしを砕いたものを使う業者さんもいます。品種によってはどうしても芽数が多くならないものもあるので、この原材料で調整します。品種の癖を知って培地の原材料を調整していきます。時々、教えてもらいたいと尋ねてくる人もいますが、弊社のやり方は教えられますが、その人に合うかは別です。そこが難しいところです。建物が違うだけでも育て方が変わってしまいますから。
−きのこといえば秋のイメージですが、時期によっておいしさに違いなどはありますか?
鬼澤さん:
味は春先や夏の方がおいしく安定しているかもしれません。きのこの需要が多くなる秋冬出しのきのこは、菌を植えるのが暑い時期なので菌がうまく元気に回らないなど、トラブルが多いです。春先は寒い時期に菌を植えますので菌が元気な状態で回ってくれます。
また、近頃は冷凍でも食べられますよ、とテレビなどで案内していますが、生のものが一番おいしいと思います。冷凍すると、匂いが強くなりますから。家庭用冷蔵庫だと完全に凍り切らないままなので冷凍による劣化は防ぎきれないかと思います。弊社では最先端の冷凍技術を使用して、マイナス35度で一気に凍らせます。食材が凍る時の氷の粒をできるだけ大きくしないようにし、冷凍による劣化を抑えることができます。そのため、ぶなしめじの細胞が壊れるのを防ぎ、旨味、鮮度、食感を維持したままの冷凍が可能になりました。でもやっぱり採れたての新鮮なものが一番です。直接買いに来ていただければ、ちょっと待ってもらってその場で収穫し袋詰めするので、とびきり新鮮なぶなしめじを手にすることができます。
【取材録】
実験室のようなブルーのライトが光る空間はなぜか癒される空間でした。ぶなしめじが目をかけられ、手をかけられ、常にちょうど良い温度や湿度に調整され人間にも心地のいい空間になっているのかもしれません。身近な食材の一つであるぶなしめじが、こんなにもたいせつにきめ細やかな管理のもと育てられていることを知りました。
ぶなしめじの様子を注意深く観察し、生育状況にあわせた調整を行いながら、菌の力を最大限に引き出す経験に裏付けされたノウハウ。さらに最新の冷凍加工技術も取り入れながら年間を通して常に安定した品質を保ち続けるための創意工夫。こうした日々の試行錯誤がそれが鬼澤食菌さんの強みであり、こうして私たちの日々の食卓は守られているんだなということが実感できました。