栗であって、栗じゃない。
いえ、現実には栗なのですが、あまりにも今までの日本栗の特性とかけ離れているもので、ついついこんなことを思ってしまったわけです。生栗を買って、調理をしたことがある人なら誰しも感じる、渋皮のむきにくさ。可食部にぺたりと張り付いているものだから、どうしたって力を入れた作業になるわけです。それが、この栗は栗の難点であるはずの渋皮の剥離性がとてもよいのです。なんたって、「ぽろたん」ですから。
茨城県独自の品種ではありませんが、つくば市にある果樹研究所で誕生しました。栗の育種場はなんと国内唯一。栗は市場が大きくないので、一箇所が限度であるというのが理由だそうですが、一箇所とは。じつは意外と多くの品種があり、現在も主流は筑波という品種。昭和34年に命名されたものが今もなお主流であるというあたり、毎年のように新たな品種が登場するほかの作物と比べると、その歴史たるや驚くばかりです。このような背景を持つ中、ぽろたんは画期的な存在であるというわけです。
破裂を防ぐために鬼皮に包丁などで、少し傷をつけてオーブンなどで15分程度焼く。そして皮をむいてみると、ほかに似つかわしいものがないほどに、ぽろっと皮がむけるのです。これはある種の感動です。栗が大好きな私は、今までに何百個も栗の皮と格闘してきた過去があるわけですから「こんなに簡単にむけていいのか」と、疑問を投げかけてしまうほどの容易さなのです。
加工に手間がかかるからと、生栗を買って調理する人が少ない日本。そんな中、このぽろたんに期待をかける都道府県は各地に広がっています。平成18年に命名され、昨年から少しずつ市場販売が始まったばかりという新しい品種ですが、栗の大きな産地を抱える熊本県や愛媛県などでも栽培する生産者が増えているとか。もちろん茨城県もしかり。笠間市やかすみがうら市なども栽培する人が増えています。もちろん、流通する量は少ないのですが、今後に期待をしているところです。
栗はつぶしてペーストにしたり、裏ごしてなめらかな食感を楽しむことも好きなのですが、ぽろたんにおいては、丸ごと調理をしたい気分。「見てみて、きれいにむけたでしょ」と誰に聞かれるわけではないのですが、自分から言いたくなってしまうのです。
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