林の中で、かさこそかさこそ。
茨城県の北西部に位置する常陸大宮市。市内でも、旧緒川村でのしいたけの栽培が盛んで、昭和42年ごろから始まったといわれています。しいたけの寝床になる、クヌギやナラが多く自生、その環境が周囲に広がっていたことが栽培のきっかけです。当初は木炭を作っていたのが、生産性の問題などもあり、次第にしいたけへと切り替えられていったといいます。収穫したてのものは生しいたけとしても出回りますが、乾燥しいたけとしての出荷量が多いのです。JA全農主催の乾燥しいたけの品評会において、あるジャンルでは農林水産大臣賞を過去13回も受賞したこともあるほど、その実力は認められているのです。
そもそもしいたけ、とひとくちに言っても、原木と菌床栽培の二種類の栽培方法に分けられ、常陸大宮市では原木栽培が多く行われています。伐採したナラやクヌギといった木に菌を植え付け、林の中でじっくり育てること約2年半。春夏秋冬をぐるりと2回も体験したうえで、やっとのことで収穫できるのが前者のもの。後者はオガクズなどの木材に菌を植え付けハウスの中で育てられるので、育つスピードはぐっと短くなります。どちらがいい、というわけではないですが、ゆっくりと自然の中で育った原木しいたけは、その香りやうまみの力強さといったら、んもう。個人的には、まつたけのソレにも勝ると思ってしまうほどです。なお、ハウス栽培なども取り入れ、年間出荷をしていますが、原木栽培での出荷は春と秋がメインです。
とある知人が「原木しいたけは作るのに時間も手間もかかるので、菌床栽培のものと比べて値段が上がってしまう。食べ手には、その値段の理由がなかなか理解してもらえないのが悲しい」と、ぼそり。確かにそう、とうなずいてしまいます。しいたけに限らず、買い手はどうしても安い、大きい、見た目がきれい、に目を奪われがちです。同じ野菜が2種類目の前に並んでいたら、どうしても安いものが売れてしまいがちです。“高いのにはワケがある”ことをパッケージに謳ったり、売り場で話したり、書いたりして売ることも大事。おいしいものは、せっかくだから多くの人にその味を知ってほしい。育ってきた環境も食べ手に伝えることは、そのものの味以上に大事なことなのかもしれません。情報をもって食べると、舌だけでなく脳も“おいしい”と喜びますしね。
『茨城のごちそう野菜(ゆたり出版)』新発売! >詳細はこちら