トンがったふりして、じつは丸い。
青果売り場の店頭には、季節を問わずトマトの赤色がひしめき合うほど、人気野菜の筆頭でもあるトマト。全国的にみても、ここ茨城県はトマトの栽培量が多く、そしてさまざまな品種やブランドを世に送り出しています。県内での産地は、南部の広域に広がっています。
1983年に登場した桃太郎系の品種の栽培が多い昨今。茨城県に限らず、かつてはファーストトマトを作る生産者も多かったのですが、その個性的なとんがったビジュアルゆえ、傷つきやすいなどの理由で、徐々に減ってきたといいます。そんななか、龍ケ崎市ではとんがり頭のファーストトマトの一大産地。ほかのトマトと比べて実が大きく、ゼリー部が少ない分ずっしりとした肉質。かじると歯に存在感をガツンと与えてくれます。毎回“トマトを食べた”充実感に満たされるのです。
龍ケ崎市でのトマトの栽培は30年ほどですが、しかも当初は違う品種を作っており、ファースト系になったのはここ15年ぐらいというから驚きです。ファーストトマトについて調べていると、“龍ケ崎”というキーワードに出会うこと、出会うこと。今や桃太郎系が広く出回るなか、逆にその個性・ブランド力がいかんなく発揮されていると感じる瞬間です。龍ケ崎市では11名の生産者全員が、エコファーマーの認定を受けるなどし、栽培技術の向上の研究に余念がありません。ファーストトマトに関しては、愛知県が最大の産地。とはいえ、龍ケ崎育ちのトマトの品質は、愛知にも負けないと評価が高いのです。かつてはネガティブ視されていた、ファースト系特有の弱点すら「全然気にならない」と作り手も、食べ手も売り手も口にするのが、その品質のよさの表れのひとつかもしれません。
最近では、ひときわ品質がよいものに「龍の泉」、高糖度のものには「龍の雫」と名付けて出荷するなど、龍ケ崎市のファーストトマトは進化し続けています。トマトの旬は夏の印象が強いですが、トマトは気温が高いと、速いスピードで成長するため、暑い夏はあっさり味の傾向に。それ以外の時期の方が収穫まで時間がかかる分、味が濃いものが多いので、個人的には今がトマトの食べどきだと思うのです。この龍ケ崎市のファーストトマトも、2月中旬から6月にかけて出荷されます。とんがり頭に出会いたいなら今。この時期を逃すと、来年までまたおあずけというわけなのです。
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