真似できないライン。
上部はすんなり細く、下になめらかなラインを描きながらでっぷりとしたフォルムをつくる。口に入れると、果肉がとろんととろけたかと思えば、続いてぷちぷちとはじける。いちじくはなんだか不思議な果物です。
世界的にも、小麦よりも古くから栽培されていたという説もあるほど、歴史のある果物です。とはいえ、茨城県での本格的な栽培は平成3年に始まったばかり。稲敷市近辺で稲作の転作としての栽培が、茨城県での本格的な栽培の始まりでした。関東ローム層という地質は水はけがよく、さらに温暖な気候がいちじくの栽培に適しているといいます。栽培品種は桝井ドーフィンで、国内で栽培されている8割がこの品種です。適度な甘みにさっぱりとした味わいで人気があります。
全国的にみると、流通量の半分は愛知県、和歌山県、兵庫県が占めます。この県名を見ると分かるように、大規模な消費がある首都圏からは離れたところが多いことに気付きます。このフードマイルの大きさも、茨城県がいちじくの栽培を始めたきっかけのひとつだといいます。いちじくは鮮度劣化が早く、傷みやすい繊細な果物。収穫後置いておくと、自身の重みで接地面から皮が傷み、下部もあっという間に割れてきます。輸送時間が短く、鮮度のよいものを首都圏に届けることができるのが茨城県、だというのです。
当初は露地栽培だけだったのが、ハウス栽培も取り入れるようになってから収穫量が増え、現在では30名弱の生産者が栽培に取り組んでいます。3つの部会に属する生産者は、毎年12月には必ず土壌診断をし、結果に応じて施肥や土壌改良を行います。農薬や化学肥料も極力使わず、エコファーマーの認定も受けるなどよりよい栽培法を求めているのです。おいしい、だけではない安心・安全という付加価値もつけて届けたいというのが願いです。
そのままがぶりと食べるのは格別なおいしさ。ですが、加熱するとまた違ったよさが顔を出します。稲敷育ちのいちじくは、ジャムやアイスクリームにも変身して一年中楽しむことができるのです。7月~10月はそのままフレッシュさを味わい、その他の時期はとろとろのジャムやひんやりアイスクリームで、いちじくを楽しむ。いちじくの話をすると、「自分で買ったことがない」という人が多いことにも気付きます。色々な表情をもついちじくを楽しまないなんて、もったいない! と、ついつい稲敷のいちじくの語りに力が入ってしまうのでした。
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