佐藤達雄准教授の奇妙な発見。
イチゴの植物体に熱ショックを与えることによって病気に対する抵抗性を誘導するため、自走式の温湯散布装置を試作しました(カンプロ様、茨城県工業技術センター様による)。レールの上をバッテリーカーが自走し、お湯をまいていきます。
成長する植物にお湯をかけることで、免疫力がつき、病気に対する抵抗力を高める。そんなショック療法を編み出したのが佐藤達雄准教授です。これまで薬剤や土壌改良などさまざまな方法で、野菜に対する病害虫への方策が生み出されてきましたが、佐藤先生の編み出した方法は単純なお湯掛け栽培。なんとそれは、一石二鳥、三鳥の効果が実証されていました。
熱いお湯で植物を目覚めさせる
佐藤先生がお湯による植物の免疫力活性化に注目したのは、失敗からの発見でした。「キュウリの栽培をしていて、真夏にキュウリはどのくらいの熱に耐えられるか実験していたんです。それがうっかり温室の窓を開けることを忘れて、三日間、閉めっ放しにしてしまいました。そうしたらキュウリは立派に育っただけでなく、病気が全然発生しないことに気がついたんです。上司には、くだらない実験をするなとえらい怒られましたが。」と熱に強いキュウリの意外性の発見に結びつきました。
しかもそのキュウリは大きな実を結び、植物と熱に関する研究を深めていきます。野菜に熱ショックを与えることで、うどんこ病、炭そ病、灰色かび病などの病気が出ないということも発見しました。さまざまな実験を繰り返すことで、お湯掛け方法で植物に免疫力が高まるこが突き止められたのでした。
病害虫は薬剤を散布することで、彼らなりの薬剤に対する耐性を進化させます。はじめは有効な薬もやがて効き目が薄くなるのが現状です。しかし、お湯は薬ではなく、植物自身の免疫力を高めるのです。薬がなくても病気に負けない健康な身体を得ることで、植物本来の実力を発揮。伸び伸びと大きな実をつけることが可能となったのでした。
産公学一体の「スーパーひたち」君の登場
佐藤先生が農林水産省の実用技術開発プロジェクトのひとつとして現在取り組んでいるイチゴ栽培では、さまざまな副産物を産み出すことが実証されています。植物に炭酸ガスを与える有効性は既に周知の事実です。そこで、給湯器を導入することで、熱湯と炭酸ガスの”いいとこ取り”を兼ね備えた熱湯散布処理装置「スーパーひたち」が開発されました。
イチゴの栽培棚に合わせて温湯を散布するパイプが移動するもので、これによりイチゴの葉が20秒間、50℃になるようにお湯を散布するものです。線路の上をバッテリー駆動の台車が移動することから、沿線を走る人気特急列車の名前を借りて「スーパーひたち君」と学生の皆さんに呼ばれています。
給湯器の排ガスの主成分は炭酸ガスと水で、これもハウス内に引き込むことで炭酸ガスをイチゴに吸収させるのです。茨城県工業技術センターと水戸のガス会社・カンプロが試作した装置で、販売価格も低く抑えることで全国のイチゴ農家に普及させたい装置です。現在、茨城県農業総合センター園芸研究所と茨城大学が中心となって効果実証試験を行っています。
佐藤先生は「薬剤ではイチゴ栽培に大切な蜂がやられてしまいます。でも、お湯では蜂が死ぬことはありません。農薬をまくときに巣箱を閉じるのですが、お湯の場合はそれも必要ありません」と言います。植物ばかりでなく昆虫にもやさしい農法として「お湯掛け」方法はユニークさで群を抜いたアイデア農法のひとつとして、大きな可能性を秘めています。
【取材録】
今、日本の農業を考えるときに大学と産業界とのタッグは必要不可欠な存在です。佐藤先生のユニークなアイデアを実現させるために装置を提供する企業。今まで考えられなかったガス会社と農業との結びつきが産まれています。取材時、佐藤先生の研究室で学ぶ学生たちが、放課後でも黙々と堆肥作りに励む姿が印象的でした。バイトや遊びにいそしむ大学生像を想像しがちですが、佐藤先生のもと作業する、長靴姿の男女の学生たち。日本の農業の将来へ、一筋の光明が感じられました。
>研究室ホームページ http://protech.agr.ibaraki.ac.jp/index.html
>実用技術開発事業「HOT STRAWBERRY PROJECT」 http://protech.agr.ibaraki.ac.jp/hotstrawberry/index.html