今の畑は糖尿病
照沼勝一商店の干し芋「雪の華」は、今や全国区の食品として多くの家庭で食されています。収穫後、じっくりと貯蔵され甘みを増したイモを丁寧に蒸し上げ、スライスして乾燥する-という干しイモ作りは、どこでも似たようなものですが、照沼勝一商店の「雪の華」だけは明らかに味の質が違っているのに驚かされます。その味の秘密は科学的に裏付けされた食の安全という基本に立ち返った畑作りにあります。
社長照沼勝浩さんは「便利さを追求するあまり、窒素肥料や科学肥料が普及し、畑はまさに糖尿病状態なんです。日本は江戸時代から循環型農業を実践しており、有機やオーガニックといった言葉も日本の農業そのものなんです」と言います。
照沼さんは元々東海村で20代続く農家で、父親の代から農産物の流通を始めました。冷凍庫を完備し、年間を通じて市場やスーパーに販売するシステムを確立しますが、東海村の都市近郊型農業は次第に嫌われ、遊休地も増えてきました。それに追い打ちを掛けるように1999年に起こったJCO臨界事故。そのころに照沼さんは「何か変だな」と気づいたといいます。
「日本人の体にも変化が起きていて、長寿県だったはずの沖縄の人たちの寿命が縮んできたり、アトピーに苦しむ人たちが増えてきたりしていました。原因はすべて化学物質で、それは日本の経済にも直結していることに気がついたんです」
「やるしかない!」。照沼さんの心に灯った変化へのチャレンジ精神は、窒素被害の出た水俣へと足を向かわせ、さまざまな研究会などにも参加するようになりました。
人間の口にして良いものだけを生産する義務
しかし、農薬漬けになった畑を甦らせるためにはどうすれば良いのか。そんな時に、日本農業賞を受賞した取手市のシモタ農芸さんの野菜に出会います。以来、「本当に信用できる農業、食品を提供する」ことを目標に研究が積み重ねられました。
照沼さんは「自然界は良くできていて、土は農薬まで分解する力があります。農薬漬けの畑を絶食させるのです。土は殺菌されて無菌状態になると、いろんな菌が入り込もうとする。そういうふうにバランスを取ろうとするんです」といいます。壊れた畑の再生を図り、安全な野菜作りに取り組む。一度は流通の立場に立ちながら、農作物を生産する側に戻ってきた照沼さん。その行動は、基本に立ち返った先祖帰りのようです。
「結局は畑を直して、太陽と水と酸素だけでできたものを食べればいいのです。干しイモも太陽の恵みで作り出されたものですから」と照沼さん。最終的には自然の力だけで農作物を育てる。肥料も農薬もいらない畑でいい物ができれば、農家の収入も自ずと増えていくことでしょう。そして消費者も健康になる—。簡単なようで難しい問題に向かって、照沼さんの歩みは一歩一歩前進しています。
【取材録】
農業生産法人 照沼勝一商店
茨城県東海村照沼600
TEL.029-282-0062
>ホームページ http://hoshiimo.co.jp
>茨城東部出荷組合ホームページ http://satumaimo.jp