「東京に近いから」。これは茨城を語るときに、たびたび使われるフレーズです。東京は、言わずと知れた大消費地。この東京に近いという立地は、いい場合があり、またその逆もあるのです。東京をはじめ、首都圏に住まう人々の胃袋を支えている茨城の農作物。あまりにも身近すぎて、意識して選ばれるということが少ない場合もあるでしょう。都内にアンテナショップを構える必要などなかったのです。近くのスーパーにでも行けば、季節を問わず県産の野菜が並んでいるのですから。
それなのに、なぜ、今。
ピンチはチャンス
3月11日以降、何度となく茨城県産の農作物に関してのニュースが流れました。そのニュースの中で出てきた「生産量上位」といった、県産の農作物が、国内でかなりのシェアを占めていることを表すキーワードの数々。農業県であることが、幸か不幸か多くの人に知られることになったのです。これはチャンス! そうとらえれば、前に進む原動力になります。これを機に、日本全国に県産の農作物をアピールすればいいのです。その役割をマルシェが担うのです。
いいものは、多くの人に教えたい
7月14日のマルシェオープン初日は、茨城県が本籍であるというマイク眞木氏や、かすみがうら市出身のアントキの猪木氏などがかけつけ、また多くのメディア関係者なども集い、にぎやかにスタートを切りました。
全体で約60坪という店内は、県産品を販売するブースと喫茶スペースに分けられています。販売ブースでは野菜・果物や加工品などが常時200種以上並びます。販売ブース側の入り口を入ると、出迎えてくれるのは納豆の数々。わら納豆やそぼろ納豆など、都内では入手困難な種類が並び、納豆好きの人たちの心をくすぐります。また、中央には野菜がずらり。直販やトレサビリティがきちんとしているなど、“顔が見える”ことを基準に選ばれています。オープン初日に並んでいた、鉾田市のスイートファーム内山の内山さんは、「震災以降、正直なところ厳しい反応も多いです。でも、その反面わかってくれて支えてくれる人もいるので頑張れますね」と。茨城県産への厳しい状況がある一方で、食べて支えてくれる人がいるのも事実です。実際、マルシェでもお客さんから「私は茨城野菜、好きよ」「買って食べることが応援になるなら、これからも買う」という声も聞かれました。
喫茶スペースは「ローズラウンジ」と名付けられ、県内の観光誘致のための情報も得ることができます。元々、観光誘致への吸引力が強くない茨城県。これを契機に、東西南北、県内の見どころをアピールするのもこのマルシェの狙いのひとつです。また、喫茶スペースには納豆Barもあって、500円で県産の納豆をごはんとともに楽しむこともできます。納豆は複数用意され、好きなものを選べます。お米も定期的に産地が変わるので、何度行っても違う魅力に出会えるはずです。
この黄門マルシェは、ひとまず半年間という期間限定のアンテナショップ。ただし、「状況をみて、延長ということもあり得ます」と、県の職員の方は話します。半年後というのは、来年の1月。この頃には茨城県をはじめ、農作物へのさまざまな被害が取り払われ、純粋に茨城県の魅力を発信し続ける拠点として存在し続けることを、切に願ってやみません。