狙え、全国区。
茨城県が農業県であるからには、県オリジナルの品種が日本を席捲してほしい、と思うのはぜいたくな願いでしょうか。しかも、それが人気のある野菜・果物であったらなおのこと嬉しい。これは、どの都道府県でも願うことなのでしょうか、近年では野菜・果物の名前に、かつての地域名を冠したものが多いように感じます。この“ひたち姫”もしかりです。
ひたち姫は、茨城県オリジナルのいちごの品種で、平成11年にとちおとめと章姫を掛け合わせて登場。平成17年に品種登録され、まだ栽培量は多くないものの県内全域で栽培されています。果実が大きくて食味がよく、栽培しやすいことを目標に品種改良されました。その狙い通り、ひと粒が大きくてやや長めのビジュアル、きちんと甘いのがウリのこの子。ひと粒食べるだけでも「いちごを食べた!」と満足感にひたることができるのです。
ひとつ問題を挙げるとしたら、果肉がやわらかいこと。もちろんやわらかい食感を好む人もいます。とはいえご存じのとおり、いちごは鮮度劣化がとても速い。輸送に耐えうる品質と鮮度の保持にすぐれていることが、広く栽培される品種になれるかどうかに関わっているといっても過言ではないでしょう。果肉がやわらかいひたち姫には、そこが越えなければいけないハードルでもあるのです。そんな背景もあり、現在では流通過程が短い直売所での販売や、摘み取り園での栽培などが主になっています。
県独自の品種としては、ほかに“いばらキッス”もあります。糖度が高くてほどよい酸味ということで、食味の評判は上々です。果肉はやわらかめですが、日持ちはいいのでこれからに期待したいところです。
品種の変遷が激しいいちごですが、とちおとめの人気は依然変わらず、県内で作られている品種の9割ほどはとちおとめです。何事も、遠く離れたものよりも、近いものの方がライバル意識が芽生えがち。とちおとめがお隣、栃木県で生まれた品種であるからこそ、より一層「わが茨城県にもツワモノの品種を!」と願ってしまいます。
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