こんなにも懐が広い野菜、ほかにはないかもしれない。
と言っても過言ではないほど、なすはどんな料理にも対応してくれる、万能野菜のひとつです。味にクセがないので、和洋アジアン…どんなジャンルの料理にもぴたりとはまり、さらには揚げても焼いても、煮てもよし。すべての調理法がベストと言ってもいいほど、どの調理法にも対応。しかもふわふわの果肉には、さまざまな味を取り込む包容力があります。例えばだしがしみ込んだ果肉をほうばると、「あぁ、日本人でよかった」と思ってしまうほど。なんと頼れる果肉なのだろうと、思わずひれ伏したくなるほどの存在です。
日本では全国各地にさまざまな在来種が存在し、それゆえに一般的な中長なすといっても、大規模な産地の存在を感じる人は多くはないかもしれません。しかしこれまた例にもれることなく、茨城県で多く作られている野菜のひとつがなすなのです。夏から秋にかけ収穫される夏秋なすのデータをみると、平成21年度は新潟県、山形県に次いで収穫量が3位。今の時期、県内であれば売られているなすのその多くは茨城県産であることは想像に難くありません。
全県的に広く栽培されていますが、常陸大宮市をはじめ、近隣の大子町や常陸太田市などで作られ“奥久慈なす”として出荷されているなすがあります。そもそも奥久慈とは、県北を流れる久慈川地域の中山間部のこと。この地域で作られるなすは、皮がやわらかで身がしまっていると評判がいいのです。この地域では6月下旬~11月に露地栽培したものをメインに出荷しています。とはいえ、中山間部ゆえ栽培期間がやや短く、収穫量がそんなに多くないのも現実。現在では促成栽培などの技術を向上し、秋~春にかけて出荷量を増やすことが目下の課題だといいます。
ちなみにまだまだ暑い時期、火を使いたくないときによく作るのが、生のまま使うマリネ。使う材料はお好みですが、小さめの乱切りにしたなすと、スライスした紫たまねぎ、フレッシュバジルを手でちぎって加え、オリーブオイル、レモン果汁、塩をちょこっと振りかけて冷蔵庫に入れておけば、あとは時間が勝手に調理をしてくれます。懐の広いなすだからこそ、“生で食べない”なんて先入観をぽいっと捨ててしまえば、もっとなすのある食卓が楽しくなる、とも思っています。
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