地味で滋味。
ごぼうを食べるたびに、脳内にはこの言葉が浮かびます。地中に深く根を伸ばし、掘り出されたその姿は土にまみれ、決して華やかとは言いがたい。ですが、その細長い根に蓄えられたうまみは何にも変えがたく「ごぼうでなきゃ」と、指名をしたくなるのです。控えめなのはビジュアルだけではありません。茨城県は生産量が全国2位であるにもかかわらず、あまり知られていないのも事実。県内では鉾田市での栽培が多く、平成18年度のデータによると、市町村レベルでは全国1位の算出を誇ります。
鉾田市はごぼうだけではなく、ほかにメロンや水菜、さつまいもの栽培も盛んな豊かな土地。ごぼうの栽培が始まったのは、昭和30~40年ごろだといいます。どのように栽培が始まったかは定かではありませんが、土層が深いことがごぼうの栽培に適しているのだそう。香りが豊かで質がいいと、評判上々。県内はもちろん、関東、東北地方にも広く出荷されています。これからさらに、鉾田市育ちのごぼうをアピールしたいと思ってはいるものの、ほかの果物などの華やかさと比べるとやはり地味さが目立つというごぼう。どのように、全国に存在を広めていくかが課題なのだそう。ほかに加工品としても広めていきたいと、考えているといいます。
ちなみに“ごぼう抜き”という言葉がありますが、実際は抜いて収穫するのは至難の業。私たちが食している根の部分には、さらに細かなひげ根が多数あり、地中にずしりと根を張ります。“抜かれてたまるか”とごぼうが叫んでいるかのように、それはそれはしっかりと根を張るので、抜くのは相当に力が要り、実際は掘って収穫しています。
ごぼうの調理方法を調べていると、切った後は水にさらしてアクを抜く、というくだりがよく出てきますが個人的には、水にはさらしません。アクというと、どうしても“悪”という言葉が脳裏をよぎり、マイナスイメージにとられがちな気がするのですが、ごぼうのアク=うまみ。さらには酢水にさらして独特の香りを消してしまうなんて、なんともったいないことか! と思うのです。ごぼうを白く仕上げなければならない理由なんて、思い浮かばないのです。ごぼうの香りも味も、シックな色合いもそのままに。切ったらそのまま炒めて、煮て。火の通りも意外と早い。こんなにも便利でおいしい素材、もっともっと広がらないわけはない、と食べるたびに思うのです。
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