赤い誘惑。
冬から春にかけて、青果売り場の店頭で、ツヤと光を振りまく赤い果実を目にするたびに、無意識のうちに手にしたくなる衝動にかられます。私の周りでは、いちごが苦手だという人を見たことがないほど、老若男女に好まれる果実のひとつではないでしょうか。もちろん、厳密には野菜に属するいちごですが、実際の現場では立派な果物としての立ち居地です。
クリスマスケーキの具としての印象が強いですが、本来の旬は春先。茨城県では主に12~5月にかけて出荷されています。県内では、東南の海沿いでの栽培が多く、そのなかでも鉾田市近辺での栽培が盛んです。この地域では、早いものでは10月下旬から出荷が始まり、だいたい5月下旬まで続きます。太平洋に面して温暖で、水はけのよい地質。この気候と地質が、栽培に向いていると、40年ほど前から徐々に栽培が多くなっていったといいます。かつては、いちごとメロンの2つの品目の栽培を手がける生産者が多かったのが、現在ではいちごだけの専業が増えているとのこと。栽培には高い技術を要する反面、ひとたびその技術を身につければ、長期で収穫が可能になることも背景にあるようです。
先に書いたように、果物のなかでも人気の高いいちごということもあり、各都道府県に独自のブランドや品種を打ち出している昨今。とはいえ、この地域ではとちおとめ一辺倒。やはり、食味や栽培の面においても、優れているということがその理由のようです。
全国各地に、いちごの大きな産地がありますが、鉾田のいちごは、南は長野、北は岩手県まで出荷されています。関東には、栃木県という大きな産地がありますが、茨城県内はもちろんのこと、京浜地区でも茨城県産のいちごを目にする機会が増えているような印象もあります。茨城県独自の品種ひたち姫や、今年度からはひたち4号も試験的に店頭にお目見え。これから、じわじわと広がっていくのか見守りたいと、なぜか母親の気持ちになります。
いちごは先端に向かって甘みが増すので、ヘタを取ったら先端に向かって食べ進むほうが、満足度が上がります。口の中でぷちんとはじけると、甘くって、ほんのりとすっぱくって。自身の持つ水分とともに、口から体の中に至福がしみこんでいくようです。「いちごは鮮度劣化が早いからね」と、誰に怒られるわけでもないのに言い訳をしつつ、あっという間に1パック食べきってしまうのです。
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