農業へ障害者の力を
つくば市は日本の科学分野での研究開発の最先端都市という顔をイメージしがちですが、足元を見つめれば農業分野でもさまざまな取り組みが行われています。後継者不足を抱える農業現場と、雇用の不安を抱える障害者。それら二つの課題解決に果敢に挑戦しているのがごきげんファームです。農場長の伊藤文弥さんは私たちの取材に対し、農業と福祉の在り方について明確な道筋を示してくれました。
わずか2年で飛躍を続ける
ごきげんファームは、2011年1月に産声を上げたばかりの農業と福祉の架け橋となる特定非営利活動法人です。約60人の障害者が参加し、一日平均35人が農作業に取り組んでいます。農作業は自前の農園でのホウレンソウやベビーリーフなどの栽培のほかに、農家への支援作業も実施。高齢やさまざまな事情で作業のできない農家へ出向いて、草取りやマルチはがし、定植や種まきといった作業を代行しています。さらに、貸し農園やカフェも運営し、わずか2年ほどでその活動の場は大きく羽ばたこうとしています。
だれもがごきげんに暮らせる社会を
ごきげんファームは知的障害者らが養護学校を卒業しても、一般企業に就職できないという現実を憂いていた前つくば市議の五十嵐立晴さんらによって設立されました。障害者はその障害にあった環境を整えることで、最大限の能力を発揮できるという有力な人材です。一方の農業の現場では後継者不足など次代の担い手不足に悩んでいる現実がありました。ごきげんファームでは一人ひとりの特性を把握することで、その人に合った農作業現場をマッチングし、福祉と農業の両立を図ったのです。運営のためには個人や任意団体では責任の所在があいまいになることを危惧し、持続的な運営を可能にするために法人化を決断したのです。
障害者だからではなく高品質、高付加価値野菜を
障害者施設などで販売する様々な物販は、得てして「障害者の作ったものだから」という購買意識がどこかに潜んでいるものです。しかし、ごきげんファームでは「高品質で付加価値も高く、良い品」であると選択してもらえる農作物作りに取り組んでいます。消費者がごきげんファームの農作物を選んでもらうことで、障害者にも「働いている」という意識を芽生えさせたいという思いも込められています。販売の現場を体験してもらうことにも積極的で、オリジナル「ライズバーガー」なども開発。各種イベントなどにも出展することで、ごきげんファームの理念や優良な農作物のPRも行っています。
障害者の本格的な雇用を目指して
障害者の雇用支援については、就労の場へ通所し本格的な就労を支援するB型と本格的に雇用関係を結ぶA型があります。現在、ごきげんファームはB型で障害者は月平均1万2000円ほどの賃金を得ています。働く訓練をする場という位置づけです。一方、A型は障害者との雇用契約を結び就労を継続させることで、企業人として働いてもらうのです。現在B型の訓練施設などは増えてはいますが、訓練してもその先、受け入れてくれる企業は現場での理解が進まないなど、県内でもA型は6カ所ほどに過ぎません。ごきげんファームは将来はA型をスタートさせ、現在働いているメンバーの中から、企業として雇用できる人材を育成したいとの未来予想図を描いています。
【取材録】
ごきげんファームで話をお聞きしたのは農場長の伊藤文弥さんでした。愛知県出身でつくば大学で化学を専攻していた学生時代に五十嵐代表理事と知り合い、畑違いの農業と福祉の道に進んだ異色の農業経営者です。昨年は「いばらきドリームプランプレゼンテージョン」で大賞を受賞するなど熱く、ごきげんファームの夢を語ってくれました。案内されたカフェではおしゃれに着飾った農作物が販売され、接客に当たったスタッフはとても親切でした。しかし「あの方たちも障害者なんですよ」とあとから聞かされびっくりしました。一人ひとりの適性に合った支援計画を立てている伊藤農場長のはつらつとした姿が印象的でした。
>ホームページ http://www.gokigenfarm.org