水戸市の那珂川河川敷沿いに広がる豊かな農地の一角に、さまざまな野菜が収穫の時期を迎えていました。トマトやナス、パプリカ、カラーピーマン、キュウリ、枝豆、水菜などの野菜が生産者の思いに応えるように実を太らせています。やがて収穫を楽しみにやってきたのは神奈川県川崎市のゴスペルグループの団体「川崎コミュニティークワイヤー」の人たち。うれしそうに収穫を始めたメンバーはこの日を楽しみにしていました。この水戸の農地と首都圏を結びつけた張本人が水戸市双葉台の西村智訓さんでした。
水戸への移住は都市緑化から
西村さんは元々東京出身で、子どものころはブラジルサンパウロで過ごしたという経歴の持ち主。大学で林業を専攻し、ビルの屋上などに緑を増やす都市緑化の会社に就職。大学の後輩である美果絵さんと結婚後、奥様と同級であったドラちゃん(本名=佳葉子さん)が水戸に就職した縁で、水戸への移住・独立を決意したそうです。
「水戸はちょっと離れれば緑豊かな土地です。ドラちゃんは那珂川のカヌーを楽しむために水戸の造園業者へ就職しましたが、私は緑のコンサルタントとして都市緑化や林業に関する仕事の場として水戸を選びました」と移住の動機を語ります。
街と里と山を結びつけた「山緑ネットワーク」の代表として昨年11月に水戸へ。その一方、水戸市柳河の石川美紀子さんの遊休地農地を借りて、農業にもチャレンジしているのです。
旺盛な活動意欲で水戸をPR
西村さんの思い切った決意と行動は、水戸在住の多くの同年代の人々へも刺激を与えています。市民で組織する「ウォーター ドアーズ」に参加して、桜川の浄化に積極的に取り組むなど見知らぬ土地でも臆することなく人脈を広げ、水戸での存在感を示し始めました。
おおらかで開けっぴろげな性格はすぐに水戸の土地になじみ、フェースブックなどのSNSを通じて、首都圏へと水戸の情報発信を続け、地元の人以上に水戸の魅力を伝え続けているのです。
風評被害を気にしない首都圏人
震災直後、西村さんは石川さんの畑を借りて、首都圏の人たちに農業体験を楽しんでもらうプランを実行します。自分で栽培したい野菜の苗を自分で選んでもらって苗付けを行い、途中の管理は西村さんが行い、収穫は自分たちで行うというものです。
それが、この日のゴスペルグループのメンバーでした。皆自分たちの植え付けた野菜の実りに歓声をあげ、楽しそうに収穫します。茨城では原発事故のために風評被害が出ているなんて、微塵も感じさせなく、自分たちの野菜の収穫に時を忘れたように取り組みました。
収穫後は西村さんの本領発揮です。西村さんのもう一つの顔である山の調理人・森のクラフト作家としての腕の見せ所となりました。西村さんのダイナミックなダッチオーブン料理が参加者に振る舞われ、あたりが闇に包まれるまで、農作物の収穫を祝い合いました。
首都圏から水戸へ移り住み、水戸の農業や街の魅力を発信する「伝え人」のひとりが西村さんです。