レタスやキャベツ、ハクサイなどを中心に業務用野菜を手掛けるサンワアグリビジネスは、福島原発事故の発生後、取引先に自社の野菜の放射線量などのデータを公表しました。その対応は国や県が本県産野菜の調査を始める前という素早さ。同社の本田量規専務は、風評被害に戸惑う消費者へ前向きに「安全・安心」をアピールするポジティブ経営で、困難に立ち向かっています。(写真=社長の竹村正義さん(右)と専務の本田さん)
3月17日の知事発言が引き金。自社のレタスの取り引き停止に
-今回の原発事故での風評被害はどのようなものでしたか?
本田 知事がホウレンソウの出荷停止を決めたことで、ほかの野菜もぴたりと出荷が止まりました。私どもでも2週間は全く出荷することができない状態でした。この時期レタスだけでも日量平均2000ケース以上あるのですが、行政に処分方法について問い合わせてもアクションを起こしてくれない。自分たちで廃棄処分するしかありませんでした。
-震災後、レタスの放射線量の分析は素早かったですね。
本田 3月17日には千葉市にある日本分析センターへレタスを持ち込み、直ぐに分析して欲しいと依頼しました。国や県は18日から分析を始めましたから、それより1日早かったですね。当時、県内の検査機関は震災の影響で分析できるところがなく、片道分のガソリンだけで千葉まで行きました。そこで、毎週木曜日はうちの検査のために時間を作って欲しいと依頼しました。
10年前の事故をきっかけに風評被害に備える
-放射線による影響はどのような結果ですか。
本田 放射性ヨウ素、セシウムの検査は当初から原子力安全委員会の指標を下回っていました。検査機関での分析は週1回行い、週5回以上は簡易検査を行っています。検査結果はホームページで随時公表しているほか、取引先へはメールで一斉にお知らせしています。
-自社で独自に放射線検査を行うのは大変でしょう。
本田 10年前のJCOの事故が教訓となりました。そのため風評被害が出るのを想定していました。取引先も何か安全を担保するものを欲しがっているのです。それでも「野菜を買ってあげられなくて申し訳ない」と言われ、取り引きが一時停止したり、出荷を自粛することもありました。被災地に近いところは比較的気持ちは分かってくれますが、遠いところほど持ってきて欲しくないという心理が働くようです。
日本人による国産野菜生産。生産者の思いを消費者へ
-原発事故で中国からの研修生なども帰国したということも聞きますが。
本田 私のところでも帰国した研修生がいます。しかし私どもは従来から、日本人が作る国産野菜が売れるはずだと、日本人の就労希望者を増やしていましたので、そんなに影響はありません。また、ボラバイトというボランティアとバイトを合わせたような方々の力も借りています。今回の震災で職を失った人や会社が無くなってしまった人などの受け入れも検討しています。
-直接消費者へ理解を求めていく活動も行っていますね。
【取材録】
今回の東日本大震災は茨城農業にとっても甚大な被害が生じました。液状化、陥没、用水路の破損など物理的な被害に加えて福島原発事故による放射線汚染の風評被害-と、その影響の大きさに生産農家は、かつてない困難に立ち向かっています。サンワアグリビジネスさんはこれら被害を想定し、生産物をいち早く検査機関で分析するなど、行政に先駆けた対応をしてきました。人間にとって欠かせない食の安全を守り、積極的に情報を公開し続けています。農業をビジネスとしてとらえた場合、企業としては当然の行いですが、常に先を読み、未来へ向けた視線をそらさない企業精神が、立ちはだかる壁を軽々と乗り越えていきそうです。
■有限会社サンワアグリビジネス
古河市長左エ門新田986-1
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