山の斜面などに自生する自然薯は山イモとは一線を画する自然野菜の王様です。シャキシャキした食感を楽しむ山イモとは違い、無骨であっても、粘りと味の深さでは「山菜の王者」と評されるだけあって、一度食べるとその食味に魅了されることは間違いありません。その天然の自然薯を人工栽培にして、笠間の名産として広めようと「笠間自然薯研究会」(大里安夫会長)は直売所を設けるなど新たな歩みを始めています。
天然自然薯の栽培に成功
-自然薯は元々、自然に生えるものですよね。
大里さん 自然薯は山菜の王者の威名を持つ植物です。古くから人々に親しまれ、とろろ汁は江戸時代にはさかんに食べられるようになりました。現代ではその粘りの強さから、だし汁などと合わせて食べることが普及しています。研究会は12年前に結成し、自然のものを自分たちでどう作っていくか研究を重ね、現在14軒の農家が参加して、栽培技術の研さんに励んでいます。
-作り方の基本はどのようなものでしょうか?
大里さん 自然薯は本来、ムカゴと呼ばれる実からその生育地域を広げていきます。私たちは種イモを1年かけて育ててから畑に埋めていきます。雨といに似たU字型のシートの上に種を植え、それを少しずつずらしながら、山砂をかけて生育させます。山砂は自然薯に色が付かないなどの利点があります。春先に土作りをしますが、完全な有機栽培で、エコファーマーの認証を受けています。
人工栽培の利点と苦労
-自然の物を人工で栽培するのは大変なのでは?
大里さん 山に自生する自然薯も同じですが、「ヤマイモハムシ」と呼ばれる害虫が天敵です。これに新葉をなめられてしまうと、萎縮してしまい、商品にはなりません。このため、殺虫剤を使うこともありますが、植えるときの労力が大変ですが、基本的には自然の力に任せています。
-笠間という土地は自然薯栽培に向いていたのですか?
大里さん 土壌は関東ローム層で、気候も自然薯栽培には向いているようです。ただ、最近はイノシシ被害も多く、畑の周りに電気柵を設けたり対策費も馬鹿になりません。苦労も多いのですが、定年後に自然薯栽培に取り組む人たちも増えており、研究会にも若い人たちも参加し始めています。大体10アールあたり2000本の収穫が見込めますので、やりがいのある作物です。
自然薯の食味と魅力
-野菜としての自然薯はどのような特徴があるのでしょう。
大里さん 長イモなどと比べて10倍の粘りがあると言われています。すり下ろしたものはそのままではなく必ずだし汁に合わせないと音狩りが強すぎます。しかし、独特ののどごしと滋養強壮・体力増進に効果が高いというのは江戸時代から経験的に多くの人が知っています。最近は食べ方もいろいろなレシピが紹介されています。磯辺揚げなどにすると、お餅のようで、イモとは思えないほどです。
-自然食品の王者と言われるだけに、素晴らしい魅力ですね。
大里さん 毎年品評会を実施していますが、昔は糖度7~8度でしたが、今では10~11度という自然薯が出来るようになりました。自然薯は日持ちが良く、痛みも少ないという特徴もあります。保冷庫があれば、通年出荷も可能です。さらに多くの人に甘くて粘りのある自然薯を味わってほしいですね。
笠間ブランドへの道程
-笠間の特産として、今後の展開はどのようにお考えですか?
大里さん 県の「うまいもんどころ」の認可を得ています。また、園芸いばらき振興協会の「園芸きらり産地コンクール」でも優秀賞を受賞するなど、徐々に認知されるようになってきました。県観光物産協会の会員にもなっていますので、県外でのイベントに積極的に参加しています。会員一丸となってブランド化へ向けての努力は続けて行きたいと思っています。
-今後はどのような展開を図っていくのでしょう。
大里さん 友部ICから笠間に向かう国道355号沿いに直売所を設置していきます。とりあえずテント張りで土日祝日のオープンですが、プレハブでも良いからきちんとした施設にしたいと思っています。ネット販売も少しずつ増えてますね。また、品質をさらに高めるために県の農業普及センターとともにオリジナル品種の開発を進めています。山から採取してきた自然薯から新たな品種を作り、笠間のオリジナル自然薯として売り出していきたいですね。
【取材録】
自然薯は滋養強壮に優れた健康食品として注目を集めています。良質のデンプン質に加え、アミラーゼなどの酵素が多数含まれている上、カルシウム、鉄分、リンなどビタミン、ミネラルが豊富です。疲労回復、成人病、がん・糖尿病予防など良いとこばかり。今後も需要の見込まれる発展途上の食物ですが、ブランド化とオリジナル品種の開発によって、付加価値を高める努力を続けています。「高くても良いもの」志向の消費者にどうアピールできるかを目指し活動を続ける、笠間自然薯研究会の進む道は明るいようです。
ホームページ/http://www.kasama-jinenjo.jp