笠間市の農家・橋本吉章さんは、中学3年から30歳まで、モトクロスの世界でプロになることを目標に生きてきました。しかし、練習中に大怪我をしたことが転機となり、農業の道に進むことになります。
ユニオンファームで研修後、FC独立。就農当初は良い作物が採れずに、苦悩の日々が続きます。2年目までは大赤字の経営状態。その最たる原因は、畑の立地条件にありました。橋本さんは、排水設備の改善と土壌改良に尽力します。そして、3年目にようやく努力が報われ、見違えるほどに良い野菜が収穫できるようになりました。
現在は、就農7年目。有機JAS認定を受け、11棟のハウスで、エンサイ、水菜、春菊を栽培しています。就農当初の苦労を乗り越えた今、HASHIMOTO農場の快進撃が始まろうとしています。
就農して、いきなりの試練
―就農当初、大変な苦労をされたとのことですが。
橋本さん 今ある畑の土地は、水田から畑に転作したもので、排水がとても悪い土地でした。その為、水分が
多過ぎて野菜が育たない状態が2年ほど続きました。当然、大赤字の状態でした。
私の畑では、他の畑の人たちと同じやり方で栽培しても良い物が作れません。教科書通りに栽培しても、その通りにはいかない立地条件であったのです。
ユニオンファームには栽培マニュアルがあるのですが、それを使って他の畑との違いを分析しました。通常の畑とどれだけズレが生じているのかを確認するという作業に2年ほど費やして、3年目から自分の畑の性質がわかってきました。
排水性と土壌状態を改善
―具体的には、どのように改善されたのですか?
橋本さん 青森県の業者の指導を受けて、暗渠(あんきょ)排水をハウスの周辺に作りました。それでも、まだ完全に改善はされなかったので、広いハウスの中央には、一本溝を通して排水を良くしました。
排水性が良くなると、次は土壌改良に取り組みました。植物性の堆肥を通常よりやや多めに投入していくことで、土の物理性が良くなってきました。土の成分分析を繰り返して、畑全体がバランスの良い土壌になると、土壌の状態が良くなるのに比例して、出来る作物も元気になりました。
家族の支えと理解があって、「どん底」から這い上がれた
―「どん底の状態」を抜け出せた秘訣とは?
橋本さん 家族の協力や支えがあったのが大きいです。仕事の面はもちろんですが、どんな些細なことでも相談に乗ってくれて、精神的にも支えられました。両親は、有機栽培ではありませんが専業農家でしたので、「まあ、いろんな時があるから」と、前向きにサポートしてくれました。
今となっては、どん底の状態が最初にあって逆に良かったと思います。最初から良い状況の人は、悪い状況に陥ると慌ててしまいがち。私の場合は、最初が最悪の状況でしたので、ちょっとした良いことでも、うれしく感じられるようになりました
エンサイの栽培で、窮地を脱出。
―就農3年目からは収量が安定したのですか?
橋本さん 排水設備を整えた後、エンサイの栽培を始めて収量が飛躍的に伸びました。エンサイは、土壌に水分が多くても栽培可能ということで作り始めたのですが、採りきれない位の量が採れました。安定的にどれくらいの量をどれくらいのペースで収穫すればいいのかを計算して栽培すると、毎年、面白いように収量が上がりました。
基本に忠実であれば、結果は自ずとついてくる
―売上を上げるポイントとは何でしょう?
橋本さん 収穫の作業が誰でもやり易い品質で、歩留まりが良い収穫適期を見極めていけば、反収は上げられます。
収穫効率が2倍に良くなると、人件費は半分で済むようになり、当然収益性が良くなります。一度数字が上がると、それほど大きな崩れはなく、数字の伸びが落ち着いたと思うとまた数字が跳ね上がりました。やがて他の畑の農家さんと同じ位の量が採れるようになり、それを追い越した時が、たまらなくうれしかったです。
最初に堆肥投入や土壌分析をしても、すぐには目に見えてこないものですが、基本を忠実にやっていれば、数字は自然と上がってくるものだと感じました。
「いい塩梅」の気構えが大切
―釣り、サバイバルゲーム、ラジコン、バイク・・・。趣味も豊富なようですが、その時間はどこから捻出しているのでしょうか?
橋本さん ユニオンファームには、栽培計画表があるので予定が立てやすい仕組みになっています。仕事も遊びも、計画性が大事。私の場合、仕事の原動力は遊びですから。
若い人ほど真面目にデータを取って、基本を抑えて良い物を作ろうと頑張り過ぎてしまいます。あれもやって、これもやって。それは大変素晴らしいことですが。そこを、昔の人の言い方でいうと「いい塩梅」に抑えてやっているのが私のスタイルです。
最低限やることをやって、後でもいいことは後でやるようにすれば、楽しく農業をすることができると思います。
【取材録】
独立後早々に橋本さんを襲った試練。マニュアル通りにはいかない農業の厳しさが、橋本さんを待っていました。それを乗り越えた今、ユニオンファームHASHIMOTO農場の業績は右肩上がり。良い作物が収穫できて、収入は安定、計画的に休日が取れて、休日には趣味を楽しむ生活。ここに、新規就農希望者や新規就農者が目指すべく、農業の理想形があるのでは?
農業を仕事にするからといって、休日も趣味も諦めることはありません。むしろ、現代の農業は、そのような充実した生活を送る可能性を、最も秘めている職業なのかもしれません。ただし、それを実現するには、橋本さんのような逞しい精神力が必要なのかもしれませんが。