涸沼から水戸へ続く台地一帯は、緑豊かな山林と畑地が連なる静かな光景が広がっています。そんな緑のど真ん中に立派な長屋門を構える加茂川さんの家がありました。母屋の裏手ではひっきりなしにコンプレッサーの音が響きます。お邪魔すると、ネギの根の部分を風圧で吹き飛ばす作業の真っ最中でした。
広大な畑を確保し、親子でネギ栽培に励む
-ネギを通年で栽培しているのは珍しいですね。
加茂川さん 露地で通年栽培しています。畑は約1.8ヘクタールあります。長ネギはみな同じように見えますが、春ネギ、夏ネギ、冬ネギと8~9種類ほどの品種を栽培しています。露地栽培ですので冬場はビニールを掛けて育てています。1月半ばから3月半ばまでは露地物は葉がだめになってしまいますので。
-一日の作業の流れはどのようなものですか。
加茂川さん この時期は昼間の暑さには体がついていきません。そのため朝のうちに収穫を終えて、一時干しておきます。それを昼間は家族総出で、ネギの皮をむいて泥を飛ばし、箱詰めして夕方市場へ出荷します。ネギは重さではなく定数詰めなのです。1箱Mサイズだと45本、Lサイズだと35本です。量目だと5キロとしていますが、大体は6キロぐらいにはなってしましますね。
-ネギ栽培の難しさはどんなところでしょう。
加茂川さん 連作障害が一番です。そのため、畑を休ませなければいけません。また、低農薬栽培のためうちでは鶏糞を焼いて灰にしたものを土に入れています。季節によっては、朝霧が出るとベト病が発生します。黒斑病やアザミウマといった害虫にも注意が必要です。
-今回の原発事故の風評被害はどうですか?
加茂川さん これは本当にひどいものです。昨年の半値、3分の1になってしましました。うちでは一日100箱は出荷していますので、ダメージは大きく、今年は生活に不安が出ています。なんとか落ち着いてもらいたいと思っています。
-市場以外にも出荷していますか?
加茂川さん 水戸ドライブインさんやダイユーエイトさんなど直売所へも出しています。また、長ネギばかりではなく、ナス、キュウリ、シイタケなどあらゆるものも作っているので、それも直売所へは出すようにしています。長ネギは今後、おそば屋さんやレストランなどとも契約して、販路を広げていきたいと思っています。
-家族で一緒の仕事は楽しそうですね。
加茂川さん 90歳になるおばあちゃんも元気に働いてくれています。私は整備士だったのですが、3年前に就農しました。両親の働く姿は見ていたのですが、農業は本当に厳しい仕事です。でも労働は大変ですけれど、家の前の小川にはホタルが飛んでいたり、自然の中で子どもたちを育てることができ、家族のためにも精一杯努力していきたいですね。
【取材録】
県道から一本小道を入っただけで、周囲とは隔絶した世界が広がっていました。おばさまを含めて父親の肇さん、お母様と4人で取り組む長ネギの出荷作業は、心温まる農家の姿そのものです。家族が一緒に汗水流し、大切な作物を市場へと送り届ける—ごく当たり前の農家の日常ですが、1本の長ネギの裏には、このような小さな幸せが詰まっていることを感じてほしいものです。