涸沼はシジミをはじめ豊富な魚介類で、その周囲の人々に豊かな恵みを与えてきました。さらに涸沼川周辺は水戸近郊有数の穀倉地帯として、田園風景が広がっています。そんな田んぼの一角に環舎涸沼のハウスと作業場があり、農作業にいそしむ人たちが除草作業を続けています。
地元意識を忘れない農業生産法人
-元々大場さんは農家の後継者ですか
大場さん コメ農家の出身ですが、店舗を主体とした建築業をしていました。この周辺では1町歩以下の農家でも、一軒一軒が機械を持っていて共有化しない。1年に何度も使う機械じゃないのに、無駄な投資を強いられています。やがて若い後継者がいなくなり、稲作を依託するようになりました。でも、水利費や税金、依託作業費などを考えたら、米価以上に金が掛かります。余計に後を継がない、だれもやらなくなるのは当然でしょう。
-そんな現状を目の当たりにして、大場さんが行動を起こしたのですね
大場さん 小さな農家が成り立たなくなってしまうのでは、この地域も廃れてしまいます。そこで1年を通じて耕作できるものとして、ベビーリーフを中心とした生産法人を立ち上げました。ここが農村コミュニティーの中心になればと思います。
-環舎涸沼の取り組みはどのようなものですか
大場さん この辺は昭和3年ごろまでは涸沼の底でした。汽水湖の涸沼には塩が含まれているため、土地は酸性の土壌なんです。でも、この塩分はトマトなどの栽培では糖度を増すことに効果があるんです。1町歩でも2町歩でも畑作をすれば毎日仕事がある、そうすれば雇用も生まれます。でも、作ることはできても、それをどう売って、付加価値を付けるかが分からない。自分の作ったものの行き先まで考えてあげるのが法人としての役割だと思っています。
-現在生産しているのはどのようなものでしょう
大場さん ハウスでは一年を通じてベビーリーフを作っています。15種類ほど作り、毎日10種類ほどをミックスして販売しています。稲作は稲刈りの済んだ株を発酵させる不耕起移植栽培を行っています。殺虫剤や殺菌剤などの農薬いらずで、農薬散布の労力がいらなくなります。コメの食味をあげることにもつながります。田んぼのコメは獲れすぎても良いものはできません。本当にうまいものは我々農家が一番知っていて、その方法でやっています。
-この地域のコミュニティー作りに果たす役割も大きいのではないですか
大場さん この下石崎という地区は、水もあれば田んぼも畑もあり、ライフラインが途切れても自立して生活できる場所です。作れるものはすべて作って行こうと。また、この環舎を通じて、都会からも人が来るようになりました。都内の福祉施設の方たちが宿泊体験にも来ています。稲作を楽しみに集団でバスで来る団体もあります。そのような人たちには地元のシジミラーメンを食べてもらい、味噌作りなども体験してもらいます。あんば祭りなどにも来てくれるようになり、地元の人たちとも交流が深まっています。
-法人化して4年。これからの抱負は
大場さん 都内のレストランシェフや食の研究者らとも意見交換しながら、新しい食の提案も行っています。加工を含めて、伊勢丹さんなどの顧客のアッパー層に向けた商品開発や料理の提案も行っており、どんどん外へ向かって行きたいと思っています。
【取材録】
「本当にうまいものは我々が知っている。農家はそれを直接味わえるけれど、レストランのシェフにはそれができない」と言い切る大場さん。その橋渡し役として活躍する大場さんの熱のこもった話は、うなずくことばかり。専業農家の生き残り策としての法人化への取り組みは、緒についたばかりだが、環舎の名前の通り、農業ばかりでなく生産者から消費者まで、循環する環を作り上げようとするスタイルは、新しい農業形態のトレンドになる可能性を秘めているようだ。
■有限会社環舎涸沼
茨城県東茨城郡茨城町下石崎1265
Tel. 029-293-7766
Fax.029-293-8954
>ホームページ http://www.washahinuma.com/