防風林の向こうは太平洋という鉾田市東部で、アンデス、クインシー、イバラキング、3種類のメロンを栽培している山一ファーム。難しいと言われるメロン栽培のベテランとして知られ、高い栽培技術に加えて時流や顧客のニーズに応える柔軟な姿勢がお客様に喜ばれているところです。ネットによる直接販売をメインにしており、毎年楽しみにしている多くの顧客がシーズンを待っています。
一部は市場にも出荷していますが、石田さんの出荷するメロンはそのほとんどが糖度14度以上の秀品よりも上の等級で、JA茨城旭村において10数年連続で品質優良賞を受賞。直売しているメロンはすべて市場に卸す前の段階で厳選したものですから、いかに高水準であるかは言うまでもありません。鉾田市に昨年発足した「匠の会」においても、会長と副会長の両名から推挙され会員に名を連ねた石田さん。奥様のかおりさんにも同席していただき、鉾田のメロンについてお聞きしました。
1個でも満足を得られる価値あるメロン
−山一ファームで作っているメロンの特長を教えてください。
石田さん:
メロンは1つの株から2本のツルが出てそれぞれに実をつけますが、当園では1本のツルに厳選した実を2つだけ残し、土からの栄養と手入れを集中させて、甘くて大きなメロンに仕上げています。どんなメロンを作りたいかと聞かれれば、甘くて大きい立派なメロン。JAのメロン部会で特秀品(糖度16度以上)やプレミアム(糖度18度以上)と呼ばれるものに相当するメロンを作ることしか頭にありません。
大きさについても、従来の大きな段ボール箱にいくつか入っている場合2Lや3Lサイズが主流となりますが、うちではその上の4L、5L、特大を目指しています。そのような大玉を作ろうとすると、同じ面積のハウスでも作れる数は少なくなりますが、メロンは大きい方がおおむね出来が良いですし、可食部も多くなります。
市場では糖度が13度もあれば標準的に流通しています。14度以上あれば十分に甘くておいしいと評価され、数としてもそれらが最も多く出回っています。需要と供給のバランスからそうしたクラスの方が収益率が高くなる場合もありますので、1つの株に6つ8つと多くの実をつけさせて、収穫できる個数を優先する農家もあります。こうしていろいろな方向性を持つ生産者がいることは、多くの方にさまざまな楽しみ方をしていただくために、とても良いことだと思っています。
当園では収穫量の7割をオリジナルの箱に入れて直売しています。リピーターの方々は「山一ファームのメロン」を支持してくださっているわけですから、その期待に応えるためには箱を開けた時に「わー大きい!」と歓声が上がり、「今年もおいしいのが届いたね」と納得していただけるようなものを提供していきたい。市場で扱いやすいものではなく、お客様の喜ぶものを作りたいという思いがあり、甘くて、大きくて、網目のそろった見た目にも美しいメロンを目指して栽培しています。
−そうしたメロンを作るためにはなにがたいせつですか?こういうところで差が出るというポイントはありますか?
石田さん:
まずは1本のツルに2玉だけ残して、少数精鋭でつくることが鉄則です。今年は1月10日くらいに定植し、花が咲いたのが3月10日頃。味の良さと甘さを決めるのは花が咲いてからおよそ60日くらいが目安ですが、その間に温度と湿度がメロンにとってちょうどいい具合が保てれば味の良い大玉になり、収穫の日まで葉っぱがしおれることなく生き生きとしていれば、仕上げに糖度がのってきます。55日目に試し切りして糖度を確認。等級分けには糖度だけでなく外観も影響しますが、メロンにとって心地よい環境が維持できれば、ネットの入り具合も均一で良好になります。
50年前に父がメロン栽培を始めて以来、特別な栽培方法はしていません。温度、湿度、水分の管理、それら基本中の基本を守っているだけで至って普通だと思いますが、ゆっくりでもいいから丁寧に、一つ一つ間違いのないようにということは心がけています。他に揚げるとすれば、温室の窓の開閉をまめに行うことでしょうか。
この辺りは海からの風が意外と冷たくて、真夏でも夕方には肌寒いくらいになったりします。風向きと気温が刻々と変化するので、その度にハウスの開ける方向を変えています。日が差したり、雨が降ったりといった天候の変化や、風向きが変わるたびにハウスに足を運んで窓の開閉をしているので、定植してから収穫終えるまでの期間はどこへも出かけられません。
かおりさん:
困るのは主人が不在の時です。何時ごろに西を開けろとか東を開けろと言われるのですが、そういう時に限って曇ってみたり、風が吹いたり。これは大丈夫なのかと不安になります。参考によそのハウスを見に行くのですが、それぞれのやり方があるみたいで、どこも開け方が違うんです。一日中変えないところもあったりして。みんな同じにしてくれると助かるのですが(笑)
メロン農家の未来、その課題とは。
−ご長男が仕事を継いでいますが、メロン作りにおける方向性は同じですか?また地域全体における課題はありますか?
かおりさん:
主人も、その父親も本当はなりたいものがあったけれど、「跡取りだから」という雰囲気を感じて継いだところがありました。でも私たち夫婦は、子どもたちには好きな人生を生きてもらうのがいいだろうという考えです。そこで息子たちには自由な選択をしてもらうために、私が教師の職をやめて農業を手伝うようになりました。実家は農家ではありませんでしたから、慣れない農作業が正直最初の頃は嫌々でした。でもお客様の声をよく聞いて、主人とはまた違う主婦目線で考えた商品が喜ばれたことがうれしくて。もっと良いものが作りたいと思い、ハウスに通うことが嫌ではなくなってきたのです。お客様に助けられ、育てられて、仕事に張り合いがもてるようになりました。
長男も始めはよその会社に就職しましたが、後に自分の意思で農業を継ぐことを決めて帰ってきました。強制されることなく最終的に農業を選んだということは、私同様、ひかれるものがあるのだと思います。
石田さん:
私も子どもたちにはやりたいことをやってもらえればという考えです。今私がやっているメロン栽培の形態も彼のやりたいように変えてもらってかまいませんし、そもそもメロンでなくてもかまいません。まあ一から新しいことを始めるのも、それはそれで大変だと思いますが。
メロンの一大産地といわれる鉾田市ですが、実はメロン農家の数としては一時期に比べて半数以下に減っています。手間がかかる作物ですから、栽培期間の4ヶ月程はほとんど休みが取れません。また一年一作なので、天候被害や判断ミスによって失敗したらやり直しが効かないリスクがあります。そうなると収益が極端に下がってしまう。そうしてメロンでは暮らしていけないとやめていった人の多くが、葉物野菜等に転換しているようです。葉物は生産のサイクルが短いので、多少のミスは1ヶ月で巻き返せますから。
やっと鉾田のメロンが全国的にも周知されてきたところですから、私としても盛り上げなくてはと思っています。それにはやはりメロンを作ってくれる人が増えないといけません。先に話したとおり、収量を目指す農家、トップクラスを目指す農家、いろいろあっていいのですが、「やっぱりメロンやろう」と思ってもらうには、とにかく今現役でやっている私たちメロン農家が憧れてもらえる存在になるのが一番ではないかと。「匠の会」に参加した理由の一つも、メロン栽培への理解を深め、メロンで潤っている姿を見せていくことがアピールになると思うからです。
ニーズを読み取り、お客様目線の提案を
−メロンの農閑期にはさつまいもを栽培しているそうですね。
石田さん:
種類は紅はるか、紅あずま、ふくむらさき、シルクスイートなどを作っています。さつまいももネットでの直売がメインで、大口の直取引先としては地元の問屋さんへ納品する他、ふるさと納税にも対応しています。
かおりさん:
MサイズLサイズの通常商品の他に、最近は2Sサイズの小さい芋に人気が出ています。以前私の母にあまり大きいのはいらない、小さいのが欲しいと言われたことがありました。それまでは小さい芋は商品にならないと、形に関係なく袋に入れて安売りしたり、知り合いの方にさしあげていましたが、これはもしかしたら需要があるのではないかと。
そこで形の良いものを揃えて知人に送り、「そちらの地元でこういうの売ってる?」と聞くと、見たことがいないし、焼き芋にちょうどいいと喜ばれました。そこで小さくても形のそろったものを取っておき、2〜3種類を詰め合わせて3キロ箱を作って商品化したところ、使い勝手がいいと好評をいただいています。
一昔前に比べて一世帯あたりの人数が減っており、消費者に求められる形に変化が見られます。メロンの贈答品についても、大きな段ボール箱にたくさん入った従来型ももちろん喜ばれますが、最上級のおいしさをひとつだけというプレミアム感を選びたい方もいます。
いただく側も一度にたくさん届いて食べごろを逃してしまうよりも、良いものが1個だけの方が適量でうれしいと感じる方が増えており、生活様式が変わってくると、求められる商品も変化していくのだなと感じているところです。
−足繁くハウスに通って育てたたいせつなメロン。そのおいしいメロンの選び方、最高の状態を味わってもらうための食べ方のアドバイスをお願いします。
石田さん:
自分としてこれはよくできたなと思えるメロンは、ネットの太さが均一で全体的に美しく入っているものですね。ツルのなり口に丸い緑色の部分があるのですが、それが小さめで、そこまでピリピリとひび割れたものがおいしいと思います。そこまでネットがさしているということは、最後まで木が元気だったという証です。
かおりさん:
おいしく召し上がっていただくために何よりも大事なことは、食べごろを逃さないということです。よくお尻を指で押して弾力を確かめるというのを聞きますが、それで判断するのはなかなか難しいです。うちでは箱の中に収穫日を記したご案内の紙を入れていますので、その日から5日〜10日の間が食べごろですとお知らせしています。
メロンが届いたら室温に置いて熟成させますが、実は糖度は収穫の時で決まり、その後何日置いても甘さが増えるわけではありません。何が変わるかといえば、果肉の柔らかさです。収穫してすぐに切って食べると甘みはありますがまだ硬く、日が経つにつれて柔らかくなり、皮の際まで食べやすくなります。
硬さは好みだと思いますが、果物は飲むものではなく食べるものですから、あまり柔らかすぎないタイミングで食べていただくのが良いと思います。私たちとしてはまだ実がしっかりとしてカットしてもドリップが出ない状態、収穫後5日目くらいがおいしいと感じています。柔らかいのがお好みの方はもう少し置いていただいてもかまいませんが、長くても10日以上は置かずに食べていただきたいですね。
また、タネの周りが一番甘いので、カットするときに出たドリップやタネとワタの部分をボウルなどに集め、茶こしなどでこしてから炭酸水などで割ってみてください。おいしいメロンソーダになりますよ。
【取材録】
明日収穫予定というハウスでお話をうかがいました。この時期になると黄色味を帯びてくることも多いメロンの葉っぱですが、まだまだ元気に青々としていました。山一ファームの営業面で重要な役割を果たしているかおりさんは、石田さんの高校時代の同級生。取材中も「お母さん、しゃべりすぎだよ」「主婦目線の話しをしてんでしょうよ」と、かけ合い漫才のような楽しい会話のはしばしに、仲の良さと、仕事がうまく回っている様子がうかがえます。これから先も鉾田市がメロンの名産地として続いていくために、しっかりと収益が出せる経営状態を維持し、メロン農家に憧れをもってもらえるような姿を示していくとのこと。その魅せ方(発信の仕方)がこれから一層大切になっていくと思います。100年先に続く農業を考えて活動する「匠の会」でも、山一ファームのメロンのおいしさとともに、いきいきと働く農業従事者の生き方が伝わりますように。