石岡、かすみがうら市周辺は古くから観光果樹園が栄え、茨城のフルーツパラダイスとして知られます。しかし、そこでも経営者の高齢化に伴い、農業離れが進んでいるのが現状です。遊休化する果樹園を再生させる方法として考え出されたのはカボチャの空中栽培。宙に浮いたカボチャ畑は農地に新たな光景を生みだしています。
発想を変えれば、荒廃を防げる
-カボチャの空中栽培というのはどういう発想から生まれたのでしょうか
鈴木さん この辺はナシやブドウといった果樹園があります。しかし、やっている人の高齢化が進み、後継者が育たないという問題を抱えています。しかも、40年もするとナシの木も良い実をつけなくなり寿命を迎えるのです。ナシ棚は壊すのにも費用が掛かります。じゃあ、折角ある棚をそのまま利用できないかと考え、カボチャを栽培してみようと思ったのです。
-空中栽培のメリットは何でしょうか
鈴木さん カボチャというのは重さもあって、腰をかがめて作業しなければならず、大変つらい作業なのです。露地では玉に座布団を敷かなければなりません。でも棚で育てることで、立ったままで花付けができ、玉にもまんべんなく陽が当たります。しかも収穫は運搬車が下を走ることができ、楽にできます。ナシ栽培は手間が掛かり、技術も必要ですが、カボチャは初めての人でも取り組みやすい。
-露地で育てるよりも、簡単なのですね
鈴木さん 簡単とはいえ、最初はいろいろ失敗もありました。葉が小さくて玉が焼けてしまったこともありました。茎を立てるためのシノもそこら辺にあるのでは曲がったり折れたりしていまい、わざわざ太い野ジノを探して利用することにしました。栽培する間隔も年ごとに変えることによって、連作障害も防げます。経験と工夫を重ねて順調に収穫できるようになりましたが、今年は天候不順にやられました。
-農薬も使わないのですか
鈴木さん 空中で栽培するので、草が生えても気になりません。有機栽培が可能です。甘さを引き出すためにも有機農法にこだわりました。一度、アルコール濃度が高い焼酎を薄めて散布したりしましたが、これは失敗でしたね(笑)。県内では江戸崎カボチャがブランド化されていますが、「かすみがうらカボチャ」として江戸崎に負けないものにしたいですね。
-鈴木さんのところでは、後継者問題はないのですか
鈴木さん 幸い息子が茨城大学農学部を出て、東京の太田市場で5年やってきて、家に戻ってきてくれました。農家はどこも高齢化が進んでいて、後継者が育たないという問題を抱えています。サツマイモなどの認定農家になって半額補助をもらったって、ほとんどが機械のリース代などで消えてしまい収入はわずかです。ひどいところでは赤字になってしまう。この先、日本の農業は不安です。消費者も外国から船積みされて色彩、鮮度とも落ちた野菜を食べなければならない。この空中栽培のメリットを生かして、農家が少しでも楽になればと思っています。
【取材録】
カボチャが空中から下がっている光景は新鮮な驚きだった。鈴木さんはこの栽培のメリットを強調するが、その陰には多くの試行錯誤が積み重ねられていた。栽培農家の高齢化によるナシ棚の荒廃を救い、新たな作物に転用した空中栽培という方法は、農業関係者の注目を集め、各地から視察する人も絶えない。その方法を包み隠さず披露する鈴木さんのアイデアは、全国に広がろうとしている。