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HOMESPECIAL > 農産物販売と体験のお店「野市場」。自然と農にふれあい、人と情報が集まる拠点に。

 つくばエクスプレス開業から20年が過ぎ、ますます発展する研究学園都市・つくば。2026年6月には人口が県都・水戸市を抜いて県内トップに。沿線を中心に街並みも様変わりしました。しかし、依然として変わらないものもあります。それは豊かな自然が生活のすぐそばにあるということ。

 農産物販売と体験の店「野市場」は、つくば市の自然公園「豊里ゆかりの森」のほとりに2025年4月にオープンしました。旬の農産物やおすすめの加工品の販売だけでなく、農業体験や自然観察などの体験事業の拠点にもなっています。

 まず目をひくのは、その建物の佇まい。温かみのある木造の建物のその屋根が緑の芝で覆われているのです。そして、その裏手には野菜が生き生きと育つ広大な畑が広がっています。藍色の暖簾をくぐって建物の中に入ると、この場所をつくった田中ひとみさんと島袋典子さんのお二人が笑顔で出迎えてくださいました。

 田中ひとみさんは、自然とふれあう暮らしの実践者であり案内人。島袋典子さんは、地域の活性化やまちづくりに取り組んできた、人と人をつなぐコーディーネーター。そんなお二人が、最後にやりたかったことをカタチにしたとおっしゃる「野市場」について、詳しくお話を伺いました。

野市場 (86)

 

―農産物販売と体験の店「野市場」をどうしてつくろうと思ったのですか?

田中さん:

 私は、自然、特に植物が好きで、2001年からはNPOを立ち上げて、自然観察会や環境保全活動を続けてきました。その立ち上げのときに島袋さんに声をかけて、運営や広報のことなど助けていただきながら一緒に活動をしてきました。NPOは20年以上続けてきましたが、そろそろ卒業して、「最後に二人でやりたいことをやろうね」って話になったんです。

―田中さんは、NPO法人つくば環境フォーラムを立ち上げ代表理事を務めておられました。島袋さんも理事としてずっと一緒に活動されていたんですよね。そんなお二人がやりたかったこととは、どんなことだったのでしょうか?

田中さん:

 もっと自由にたくさんの人と出会って、自然や農をつないでいく場所をつくりたかったんです。NPOにはNPOの意義と良さがあるのですが、非営利ですから経済の中には踏み込めないという少々窮屈な部分もありました。それで、島袋さんと2人だけの会社を立ち上げて(2023年に「株式会社キッチンフィールド」を設立)、もっと自由に人やもの、情報などいろいろな「いいもの」が集まってくる拠点をつくって、農業と自然と暮らしが地域で循環していったらいいなって思ったんです。島袋さんはずっとまちづくりの活動もしていましたし、私のやりたいことも理解してくださっていたので。

 「野市場」は誰でも入りやすい直売所と、私がライフワークとして続けてきた親子の自然観察会「しぜんっこくらぶ」などの体験事業、そして農業体験などができる大人のクラブ事業の三本立てやっています。暮らしの中の小さい輪の中で、そこに関わる人や情報などいいものが循環していけばいいなと思っています。

野市場 (162)

 

―自然環境にかかわる活動をずっと続けている田中さんですが、自然や農業に興味をもたれた根っこの部分はどこにあるのでしょうか。

田中さん:

 やはり自分の生い立ちだと思います。私は長野で生まれ、自然に囲まれた場所で幼少期を過ごしました。その自然がとても好きで、今でも心象風景として深く刻まれています。その後、親の事情で群馬に引っ越さなければならなかったのですが、そこもまた自然豊かなところでした。

 そんな環境で過ごすうちに、特に野の草花や生き物が好きになり、そういうものに関わる勉強をしたいと思うようになりました。その頃ちょうど、東京農工大学に環境保護学科というものができたんです。自然というものをトータルで学べるところを探していましたので、ぜひ行きたいと思いました。農工大で環境保護を専攻し、植物生態学を学んで植生管理学研究室というところで卒論を書きました。幼少期にみた自然と、群馬で過ごした自然、そして大学に入って学んだ自然。それをベースにして、今までいろいろな活動や仕事をしてきました。

野市場 (131)

 

田中さん:

 私は自然というものは心にもつながっていると思うんです。「風景は人をつくる」とおっしゃっている方がいました。私もそのように感じています。自分が育ってきた風景や、その中で過ごした時間というものが、自分の基幹になっているという感覚があります。自然というものは人にとってとても重要なものです。特に幼少期に関係した自然というものは、たとえ記憶の中で薄れたとしても、心象風景としてずっとその子の中に残ると思うんです。

 レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」という本に出合ったことも大きかったですね。自然観察なんかをしている人たちのバイブルでもあるんですけどね。その本のような活動、つまり子どもと大人が一緒になって自然の中で時間を過ごし、共感し合うことの大切さというものを多くの人に体験してほしいと思っています。

野市場 (10)

 

田中さん:

 それで、「しぜんっこくらぶ」を1994年から始めました。もう30年ぐらいになります。ゆかりの森での自然観察も25年になりました。五感を通して季節の自然を感じながら、生きものと触れ合い、 四季の行事や野菜づくり、工作、お話しなど、いろいろなプログラムを楽しく親子で体験します。

―そのころの子どもたちも大きくなっていますよね。

田中さん:

 そうなんです。当時小さかった子どもたちは大きくなって卒業していきましたが、そのお母さんたちが、今もボランティアとして助けてくれています。「しぜんっこくらぶ」を卒業したお母さんたちが立ち上げた「KAKUTO」というグループがあるんです。殻斗(かくと)というのは植物用語なのですが、ドングリのお椀の部分で木につながっている部分です。殻斗のように子どもたちの活動を支えていけたらという意味が込められています。「しぜんっこくらぶ」のサポートをするだけでなく、「畑くらぶ」で野菜をつくったり、藍を育てて藍染めをしてみたり、自分たちも楽しむこともやっています。事業に取り入れてやっていて、継続することで次に繋がっていけたらと思っています。

 「畑くらぶ」で採れたものは分けあうだけでなく、販売もしています。売り上げが得られると、活動資金も得られますし、何より励みになりますよね。ささやかではありますが、身近なところで小さな経済が回ることが大切なんじゃないかと、NPOをやっていたときから思っていたんです。

野市場 (46)

 

田中さん:

 お金や労力を出して、いろいろなものが実現していって、それが人のためになって、自分も嬉しい。そういう小さなことがつながっていくことで、地域全体が豊かになったり、みんが気持ちよく暮らせるようになったり、日常に暮らしの楽しみができたりしたらいいなって。

 たまに遠くの自然がきれいなところに旅行に行くのもいいですけれど、「今日は、ナスがなっていてきれい」とか、暮らしの中のちょっとした半径の中で喜びがたくさんあること、それをみんなで分かち合いながら、いろいろなものを作ったり、交換したり、食べたり、語り合ったりが日常の中でできて、循環していったら、暮らしが豊かになるんじゃないかと思っています。その拠点の場として「野市場」をつくったんです。

野市場 (72)

 

―島袋さんは、「野市場」の運営の要で、直売所を切り盛りされていらっしゃいます。「野市場」とは、どんなところでしょうか。

島袋さん:

 田中さんが30年ほど続けている「しぜんっこくらぶ」を卒業したお母さんたちの「KAKUTO」というボランティアグループや、その方たちも含めた「畑くらぶ」などのクラブ活動があります。まず一つは、その活動の拠点をつくりたかったんです。

 でも、それだとクローズドだと思ったので、新たな出会いがあるようにお店にしたんです。お店だったら、誰でも来られるでしょ。人が集まれば、モノだけでなく情報も集まります。自然や農業の交流の場をつくりたかったんです。

野市場 (107)

 

島袋さん:

 ここで扱う農産物の生産者には、いわゆる農家さんだけでなく、趣味が高じてプロ並みの野菜づくりをしている方もいらっしゃいます。ルバーブなど珍しい野菜が入ってくることもありますよ。ちょっと酸味があって、ジャムにしてもおいしいんです。野菜以外にもパンを販売しています。ご縁ある方が週に一度パンを持ってきてくれるようになったんです。フランス人のご主人がいる奥様で、パンを焼く薪窯の小屋が芝屋根で、そこからつながったんです。インスタのフォロワーさんもたくさんいらっしゃって、その方のパンが買えると話題になったりして、そうしてまた新しい人がここに来てくれます。パンと一緒にお野菜をすすめたり、パンのおいしい食べ方を聞いたり、情報もやり取りできていい循環が生まれます。

 今まで私は、起業のスタートアップを応援したり、地域活性化プロジェクトのプランニングやイベント運営など手掛けたりしてきました。その中で田中さんと出会い、NPOの理事として長い間一緒に活動しました。NPOは公共性があり、身の丈よりも大きいことをやらないといけないんですよね。もう2人も残り時間が少ないですから(笑)、もう少し小さいサイズで、自分たちの歯車を構築しながら、ちゃんと手ごたえのあることをやりたいと思ったんです。お店は今までと違う世界で楽しいです。

野市場 (164)

 

島袋さん:

 一方で、小売り販売の難しさ、生ものを扱っているという難しさを感じています。小さなお店ですのでたくさん仕入れたりもできません。木・金・土・日の営業の中で、品揃えが少なすぎても、余るほど多くても困ります。スーパーのようにいつでもたくさんの品物があるわけではありませんし、前に買ったものが次もあるとは限りません。でも、ここを気に入って、まとめ買いしてくださる方もいるんですよ。とはいえ、収穫の時期が限られるし、どうしても残ってしまう野菜もあります。そんな時は、子ども食堂にもっていったりしています。

 野菜は露地物がほとんどなので、「旬のものしかない」と言ってもいいぐらい季節のものが並びます。野菜の値付けは生産者さん自身でしていますが、お客様から「安すぎる」と言われることもあります。売り残したくない気持ちもあって、難しいですね。

 ここでは単に野菜を販売するというのではなく、生産者さんにもお客さまにも「いいもの」が生まれることがしたい。普段は、私たちを介して生産者さんとお客さまがつながっていますが、たまに野菜搬入に来た生産者さんとお客さまが売り場で出会って、話が弾んでいると嬉しくなりますね。互いが近くにいるという実感が、安心感につながるのではないでしょうか。経済の中でつながって小さな輪になり続いていくといいなと思っています。

 野市場 (111) 田中さん(右)と島袋さん(左)

 

野市場
茨城県つくば市遠東1621(高齢者支援センターとよさと向かい)
電話番号 090-3180-0831
営業時間 木曜・金曜・土曜・日曜の10:00~16:00

【取材録】

 取材に伺った日は、会員制のクラブ事業「畑くらぶ」の活動日でした。田中さんのアドバイスのもと、手慣れた様子で畑仕事に勤しみ、その日の収穫物をわいわいと分け合っていました。田中さんの言葉を借りると、それはまさに「大人のための部活動」。とても豊かな時間の過ごし方だと感じました。他にも、「ガーデニング&クラフト部」や里山の竹林の管理をする「竹部」など興味深いクラブがあります。冬の時期には薪ストーブを管理する「ストー部」もあるそうです。会員には、かつてお子さんと一緒に「しぜんっこくらぶ」に参加されていたお母さんもいらっしゃるというから、このエピソードだけでも、30年地域に根ざしてきたことの偉大さを感じます。
 自然と農業をたくさんの人につなぐ場として生まれた「野市場」。お二人の想いとともに、これからも手の届く半径の中で、モノだけでない「いいもの」が回る温かな場所としてあり続けるのだと思います。興味がわいてきたら、ぜひ一度、「野市場」に足を運んでみてください。

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